2019.11.12UP
めでたいときも悲しいときも宮古島の人々に寄り添う。 宮古島のおもてなし料理「しぃむのぅ」との出会い
沖縄県本島から南西約290kmにある宮古島。羽田、伊丹、中部セントレア、そして今年からは夏季のみですが福岡からも直行便が就航し、各地からアクセスしやすい島です。
2017年度には観光客数が98万人に達し、前年度比で28万人の大幅アップ、過去最多となりました。
2012年12月に一人旅で初めて訪れて以来、宮古ブルーと称される海の美しさや、郷土料理のおいしさ、地元の人々の温かみに魅了された私は、毎年宮古島へ夫を連れて通うほどに。
宮古島のソウルフードは、見ためも味もそぼく。その特徴から食べるとホッと心を落ち着かせてくれるものばかりなのです。
宮古島に着いたらまず1杯!ソウルフードNo.1 宮古そば
▲お昼どきは地元民でにぎわうお店・宮古空港近くの「大和(だいわ)食堂」さんの宮古そば
沖縄の麺といえば、沖縄そば。実は宮古島にも「宮古そば」と呼ばれる宮古島独特のそばがあります。
最初に運ばれてきたときは、「麺とネギだけ!?」 とビックリするほどのシンプルさ。その見ためには、もともと麺の中に具を隠しておく風習があったという背景があります。
麺の下に箸をとおすと、三枚肉とかまぼこがお目見え。お店の卓上には島唐辛子や宮古島の雪塩が置いてあり、お好みでかけて食べます。ストレートな平麺とあっさりしたスープが特徴で、味わい深いそばです。
宮古の人々に愛され続け、島を離れても無性に食べたくなるふるさとの味。宮古島から戻り、島の風景とともに不思議と思い出すのが宮古そばです。
実は「薬草の島」といわれる宮古島で薬草ツアー
ところで、島の野草のほとんどが薬草ともいわれる宮古島。島で薬草のことを聞くならこの人!と地元の人が推薦するのが、「ミナト食堂」( https://www.instagram.com/minato_shokudou/)の店主みゆきさんです。
みゆきさんが作る目にも美しいオードブルは、宮古島の食べられる野草や花々を摘んで作られます。
今回の滞在中、宮古島は50年に一度の大雨に見舞われました。台風かと思うほどの大雨の中にもかかわらず、みゆきさんに薬草ツアーに連れて行っていただきました。
みゆきさんは、島のどこに何が生えているかが頭の中に入っていて、次々と薬草スポットに連れて行ってくれます。道端には、ヨモギや、モリンガ、長命草などがワサワサと自生していました。
「月桃はこれね。一度覚えると、車を走らせていてもすぐに目に飛びこんでくるようになるよ」
月桃とは沖縄の山野に自生するショウガ科の植物。化粧水をはじめとするコスメに使われたり、防虫にも効果があったりします。私と夫も降りしきる雨で視界が不良な中、目を皿にして探してみると月桃が目に飛びこんでくるように!
そうして3時間で収穫した薬草や花々がこちらです。
ヨモギや、モリンガ、トゥルシー(ホーリーバジル)、クアン草、ハイビスカス、ハマゴウ、トマトなど、大雨の中で採ってきた甲斐があり、どれもみずみずしいものばかり。
「オレンジ色の花はクアン草といって、眠り草ともいわれる花だよ。紫色の花の植物はハマゴウ。お肉や魚と香草焼きにするとおいしいの」と、みゆきさんが説明してくれました。
薬草ツアーの後は、採ってきた食材でランチ作り。沖縄のしおだけで食べる揚げたての天ぷらはサクサクの食感。
旬のシークワーサーとパパイヤに採れたてトマトのサラダや、刻んだトゥルシーをのせた冷ややっこのほか、ちゅら豚のトンカツ、テビチのおでんまで、どの薬草もみゆきさんの手にかかればおいしい料理へと姿を変えました。
お祝いごとや法事にふるまう郷土料理「しぃむのぅ」
薬草料理に舌鼓を打ち、さらに宮古島の郷土料理を知りたいと思った私。「宮古島の郷土料理にはどんなものがありますか?」と尋ねると、「『しぃむのぅ』というのがあるよ」とみゆきさん。
「しぃむのぅは汁物の総称で、沖縄本島では白味噌仕立てなんだけど、宮古ではおすましで生姜を入れるの。お祝いごとや法事のときに食べるのよ」と教えてくれました。
そばにいた宮古島出身の友人も「法事のときにお客様が来たら、おしぼりよりも何よりも先に、『しぃむのぅ!』 という感じで出すの!」と言います。
しぃむのぅは具だくさんで、手間も時間もかかるので、普段の食卓にあがることは少なく、お盆や正月、お客様が来るときなどに作るごちそうなんだそう。
『しぃむのぅ』という言葉がなんともかわいらしい響きです!
しぃむのぅを食べてみたいと思った私は、「作ってみたいです! 」とみゆきさんにお願いしました。
「いいよ。まずは食材を買いに行かないとね」
夜も予約が入っていて多忙なみゆきさんに必要な食材を聞き、私と夫で宮古島のスーパーへ。
「肉は県産のちゅら豚が良いよ。脂身の少なめな三枚肉ね」
「かまぼこは宮古の平かまぼこね」
みゆきさんの指令のもと、次々と食材を買い、翌日食材をもって再びミナト食堂へ!
下茹でした三枚肉や、たけのこ、平かまぼこ、もどした椎茸、こんにゃくを私たちが千切りにしている間に、あっという間に月桃の葉っぱを採ってきたみゆきさん。月桃の葉をお皿代わりにして食材をのせてくれました。
豚のもどし汁、干し椎茸のもどし汁、かつおだしを鍋に入れて煮立てると良い香りが立ち上ります。そこに月桃の葉にのせた食材を投入し、5分ほど煮立て、しょうゆとしおをお好みで入れます。
器によそって、刻んだアサツキと生姜のすりおろしをパラッとのせてできあがり。1時間ほどで作ることができました。
親戚が多く、人と人の結びつきが深い宮古島は、慶事や法事にたくさんの人が集うため、しぃむのぅは大量に作るのが基本。「あまり煮込むと濁るから、大量に作るときは小さな鍋に食べる分を移して温めるといいよ」とみゆきさんからポイントも教えていただきました。
「ホッとするね」と、宮古出身の友人がつぶやきました。湯気が立ち上るしぃむのぅを一口食べた瞬間に、ポロッとそんな一言こぼしてしまうほどのそぼくでやさしい味。
すりおろした生姜がさっぱりと効き、夏でもさらっといただけます。家庭によって作り方や入れる食材は少しずつちがうよう。きっとお盆にも、各家庭で受け継がれたしぃむのぅがふるまわれるのでしょう。
私たちの滞在中にミナト食堂は2周年を迎え、お店には常連さんからのたくさんの祝い酒が並んでいました。今回のしぃむのぅは、ミナト食堂をお祝いするしぃむのぅだったのかもしれません。
親しみやすい方言で人々に愛される宮古島の食文化
8回目の滞在となった今回、訪れるたびに増えた友人や知人が、「んみゃーち! (宮古方言でいらっしゃいの意味)」と温かく私たち夫婦を迎えてくれました。
「ミャークフツ」と言われる宮古方言は、ユネスコが発表している絶滅危惧言語の「危険」に分類されています。
「んみゃーち!」というなんともかわいらしい響きにどこか懐かしさを感じていた私は、同じくかわいらしい響きをもつ「しぃむのぅ」という宮古島の人々にとって特別な料理にも、言葉では表せない懐かしさや親しみを直感的に感じました。
宮古方言では、サーターアンダギーは“さたぱんぴん”(「さた」は砂糖、「ぱんぴん」は天ぷらの意味)、雑炊は“じゅーし”、刺身は“なます”など、沖縄本島とはまた異なる言葉で料理や食材を言い表します。
「しぃむのぅ」という私にとっては新しくも、宮古島では古くから受け継がれてきた愛すべき郷土料理を通じて、よりいっそう、宮古島の食文化を知りたいと思うようになりました。
今後は、宮古島の市場で宮古方言の食材探しをすることもまた、宮古島を訪れた際の楽しみになりそうです。