ウクライナの家庭料理は本当に「家で食べる料理」だった!? おふくろの味・水餃子の「ヴァレニキ」との出会い

東ヨーロッパにある国・ウクライナ。北にベラルーシ、東にロシア連邦、西にポーランドやハンガリー、南には黒海に囲まれています。国旗が表す、青い空と金色の小麦畑がどこまでも広がるその風景は魅力の一つ。街で出会った男性によると、今でも街のシステムや生活習慣は社会主義の名残を残しているようです。

私が首都・キエフ北西部に位置するヴィーヌィツァを訪れたのは、2018年8月。

猛暑を記録した夏でしたが、冷房システムが完璧に整っていないウクライナの公共機関を使って、やっとの思いでたどり着きました。

ウクライナ滞在中にとても衝撃だったのは、ウクライナの人々にとっての家庭料理がまさに「家で食べる料理」だったこと。家族と一緒に作る喜び、食べる喜びを大切にしているのです。

特に「レストランでは食べられないよ」と言われた「ヴァレニキ 」というじゃがいもを包んだ水餃子のような伝統料理は、何をどんなバランスで食べるかを先に考えがちな元栄養士の私に、家庭料理のもつ時間や空間の温かみの大切さを考え直すきっかけをくれました。

伝統料理は家でしか食べられない!?

▲お世話になったアンナとイゴール

ヴィーヌィツァで私を案内してくれたのは、デザイナーのアンナ、そしてアンナと一緒に暮らす彼のイゴールでした。

毎日のようにイゴールが経営するおしゃれなカフェにお邪魔しては、いろいろな料理をごちそうに。そして、私も日本食に興味を持っているイゴールにみそ汁や海苔巻き、だし巻き卵を作りました。特に出し巻き卵は、ムービーまで撮るほどの喜びよう。

次第に距離もちぢまり、ウクライナの伝統料理を教えて欲しいと尋ねると、「ウクライナの料理はほとんど家でしか食べられないよ!」という返事が。

▲週末のメキシカンパーティーに向けて飾りつけをしていたイゴールのレストラン

「ウクライナ料理を出すレストランはすごく珍しいんだ。外食といえば、ちがう国の料理を食べる店だからね」とイゴールは話してくれました。

日本では、家で食べるようなお惣菜が食べられるお店もあれば、和食をはじめ中華、イタリアン、フレンチ、エスニック……何でも外で食べられるもの。むしろ、「コンビニ」ですべてそろえられることだってできます。

イゴールが野菜料理が好きな私に教えてくれたのはウクライナ料理の「ヴァレニキ」という料理。

ヴァレニキは水餃子の中身をじゃがいもに変えたような料理で、じゃがいもをベースにした具を小麦粉で作った生地で包み、茹でて作ります。広いウクライナ中で食べられているけれど、各地域、各過程で少しずつアレンジが違うよう。ウクライナでは日本人がイメージするようなチーズよりもサワークリームが人気で、ヴァレニキ にもサワークリームをたっぷりかけて食べる人が多いんだとか。

やめられない!サワークリームの魔法でヴァレニキの虜に!!

翌日、アンナとアンナの友だちが、イゴールのママのところへ連れて行ってくれることに。どうやらヴァレニキを作ってくれるようです。到着した先に待っていたのは、イゴール!

「どんなに忙しくても、やっぱりお母さんの味はたまに食べに来ないとね、仕事も力が入らない。分かるよね?」

仕事をほっぽりだして来たのだろうけど、いつも、こうして家族や友人との時間を大切にしているんだろうということがうかがえます。そんなイゴールのママは、これまた笑顔がとろける美人ママ!

▲左から2番めからイゴールのママ、イゴール、アンナの友だち、アンナ

初対面にもかかわらず、ウクライナ語でどんどん話しかけてくれました。手作りの野いちごリキュールが並ぶ部屋や、野菜も果物もいっぱいなのと冷蔵庫の中、棚の中も何でも見せてくれて、私はそれだけでお腹がいっぱい。

「さぁ座って」とテーブルを勧められると、野いちごワイン、山盛りフルーツ、各種ハム、サラダ。お母さんはその間にイゴールと一緒にせっせとヴァレニキ を茹でてくれました。

「たくさん作って冷凍できるから、ヴァレニキ はいつでもあるのよ。たくさん食べて」

つるっとした皮の中に詰め込まれた、甘いじゃがいも。それだけで十分おいしくて、フォークが止まりません。

「サワークリームをかけると、もっとおいしくなるよ、ウクライナ人はサワークリームを何にでも添えて食べるのよ」と、イゴールのママがヴァレニキ を多いかぶすくらいたっぷりかけてくれました。

お腹いっぱい!と思っていたのに、いくらでも食べられるやさしい味。きっと、ママに「食べて!食べて!」と勧めてもらったせいもあるのでしょう。

言葉の壁を感じさせないほどの温かい空気を持った、イゴールのママのような人になりたいなぁとお腹はポンポン、心はポカポカになって、イゴールの実家を後にしたのでした。

栄養だけでない!家庭料理が育む温かい時間と空間

栄養士として働いていた自分は、いつも栄養バランスや健康のことを先行して考えてしまいがちです。

「家族で作って食べる温かい雰囲気や時間の価値をおろそかにしていたな。人をもてなす時に、まるで我が家にいるかのような気分になってもらったことがあったかな?」と振り返りました。

イゴール家に初対面の自分ですら温かく迎え入れてもらったおかげで、家庭料理がただ栄養をとるだけのものではないことを、改めて感じたのです。

そして、ベジタリアン料理にハマった当初は、いつも外食に困り、海外みたいにもっとベジタリアン用のレストランや、レストランにベジタリアンメニューが増えたらいいのにと、社会が変わることを願っていました。外食はそもそも特別な日に利用するもの。そんなにも外に求める必要はなかったなと、帰国後、ベジタリアンでない家族も一緒に楽しめるヴァレニキ を家族にたっぷり作ったのでした。

ヴァレニキのレシピはこちら

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