【世界の郷土菓子をつくる旅Vol.2】世界最高所の首都・ラパスのベーカリーに潜入取材!ボリビアの郷土菓子「イエマ」づくり | おうちごはんラボ

おうちごはんラボ お役立ちコラム

オフィシャルメンバー

【世界の郷土菓子をつくる旅Vol.2】
世界最高所の首都・ラパスのベーカリーに潜入取材!
ボリビアの郷土菓子「イエマ」づくり

オフィシャルメンバー 旅人料理編集部

こんにちは! 旅するパティシエ・鈴木文です。

 

お菓子ブランド「世界のおやつ(http://traveling-pp.com/sekainooyatsu/)」を主宰し、カフェのプロデュースや、メディア・イベントなどを通じて、旅と郷土菓子のストーリーをお届けしています。

 

そんな私のお仕事の礎になっているのが、世界一周の旅の経験。これまで世界50カ国以上を訪ね、500種類以上の郷土菓子を学んできました。

その旅は、ただ見たり食べたりするだけの旅でなければ、単なるレシピ調査でもありません。現地の人々と一緒に、現地のお菓子をつくりながら旅することで、その国や地域の歴史・文化・風土を紐解いていく旅。

 

第1回(https://www.mainichigrillbu.com/ouchigohan/column/2536/)では、なぜ世界一周の旅に出たのか、そして「世界のおやつ」とはどんなお菓子ブランドなのかを、自己紹介の意味も込めてお伝えしました。
そして第2回ではいよいよ、南米・ボリビアを舞台とした、「世界の郷土菓子をつくる旅」の様子をお届けします!

 

 

ボリビアならではの郷土菓子って?

南米大陸のほぼ中央にあり、“高原の国”とよばれるボリビア共和国。国土の約1/3はアンデス山脈で、首都のラパスは、標高3,650mの世界最高所にある首都として知られています。

人口比率の50%以上を占めるのは、先住民族のインディヘナ。南米の中でも特に先住民が多く暮らし、街では今も民族衣装に身を包んだ人々の姿を多く見かけることができます。
 

そんなボリビアを旅していると、必ずと言ってよいほど目にする郷土菓子が、こちらの「アルファフォーレス (Alfajores)」。

厚みのある2枚のクッキーで、「ドゥルセ・デ・レチェ (Dulce de Leche)」というクリームをサンドしたお菓子です。

シンプルでありながらも、その土地の家庭やお店でアレンジされ、ボリビアの人々に愛され続けているアルファフォーレス。でもこれは、ボリビアに限った郷土菓子ではありません。アルゼンチンやペルーをはじめ、南米各地で出合うことのできる、とてもメジャーなお菓子でもあります。

スペインやポルトガルを宗主国とする南米の国々では、お菓子に限らず文化的共通点が多いのは当然のこと。しかしそれでも、この国ならではの郷土菓子はないものかしら?

そんなことを考えながら、ラパスに長く滞在していると、ふとあることに気づきました。そういえば、地元の人々でにぎわう「ベーカリー」を、やたらとよく見かける!
 

ものは試しと、何軒かのベーカリーの店内をのぞいてみることに。すると、そこにはどれもシンプルで、日本でもよく見るようなカタチのパンがずら〜り。

ただし、日本と大きく違う点は、どうやら「食パン (≒食事のためのパン)」 や「菓子パン(≒おやつとしてのパン)」 といった、はっきりとした棲み分けがないということ。

同じパンでも、大量に買い込んでいく人がいたり、気軽に立ち寄って食べ歩きをする人もいたりと、私たち日本人の感覚とは、ちょっと違った「パン」の位置付けがされているようなのです。

 

 

アポなし!家族で営むベーカリーへ突撃取材

その謎をひも解くべく、今回取材させていただいたのが、ラパスにある「パナデリア・クラウディア(Panaderia Claudia)」。ボリビア人のロファス一家が、家族で営むベーカリーです。

こちらのお店で取材はもちろん、実際に私も一緒にパンをつくらせてもらったわけですが、事前にアポイントを取っていたわけではありません。

高山病に注意しながら街を練り歩き、地元の方々に人気、かつ、しっかりとした厨房を併設しているお店を探し出して、直接取材のお願いをして周りました。

もちろん、地球の裏側からの突然の訪問者に、取材OKを出してくれるお店は多くありません。しかし、そんな中で温かく迎え入れてくれたのが、こちらのロファスさんファミリーでした。

 

ラパスを代表するパン「イエマ」

そんなロファスさんが私に教えてくれたのが、こちらの「イエマ(Yema)」というパン。

ボリビアの中でも、地方によってそれぞれ定番のパンがあるらしいのですが、ロファスさんいわく、イエマはまさにここ、ラパスを代表するパンのひとつなのだとか。

確かに私自身、近隣諸国はもちろんのこと、ボリビアのほかの街でイエマを見かけることはありませんでした。

イエマは略称で、正式には「パン・デ・イエマ (Pan de Yema)」。直訳すると“卵黄のパン”。言い換えるならば、“たまごパン”といったところでしょうか。

︎材料の特徴は、マンティカ(動物油脂)を使っている点。この油脂は水分を含まず、生地の弾力性を断つ効果があるので、ホロホロ、サクサクとした食感を生みます。

マンティカは、日本でいうところのラード (豚の背脂) にあたりますが、16世紀頃にスペインで生まれたパンやお菓子によく使われていたんだそう。宗主国がスペインのボリビアでは、パンひとつとっても植民地時代の文化の名残が感じられます。
 

また、イエマは「強力粉」ではなく「薄力粉」だけ、「イースト」ではなく「ベーキングパウダー」を使います。日本人である私たちの常識からすると、パンよりもケーキやお菓子をつくる際に使うお馴染みの材料や、手順でつくられていました。

実際に一緒につくらせてもらった、焼き立てのイエマを食べてみると、表面はホロホロ、サクサクで、まるでビスケットやスコーンのような食感。そして、中はブリオッシュのような風味豊かな味わいで、ほのかな甘さが絶妙でした。
 

イエマは、単なるパンにあらず!?

取材中、特に印象的だったのが、ロファスさんが「ラパスのパンだ」と力強く、そして何度も繰り返し口にしていたこと。

イエマは、スペインの植民地時代にボリビアに伝わったものだという説があります。歴史的背景からいえば、この説が有力なのでしょう。

仮にルーツがそうであったとしても、長い年月をかけ、結果として唯一無二の「ラパスのパン」つくりあげてきたという、この地のパン職人たちの誇りを、ロファスさんの言葉を通して感じられたように思います。

 

さらに、イエマを一緒につくらせてもらい、そして実際に食べてみて、大きな気づきもありました。

それは、「ベーカリー=パン屋さん」で、「イエマはお菓子ではなく、あくまでパン」という取材前の私の考えは、とんだ思い込みだったということ。私は「郷土菓子」をとても狭い視野で探していたようなのです。

そしてその反省は、ロファスさんの言葉で決定的なものになりました。

―ラパスの人々にとって、イエマ はどんな食べ物ですか?

「いつ何時でも食べる、手軽な食べ物。そうだね……例えるなら、ケーキでもあり、クッキーでもあり、といったところかな!」

そう、イエマ は「パン」と言いつつも、私たち日本人が考えるような「パン」「ケーキ」「お菓子」と、一概に分類できるものではなく、歴としたボリビアの郷土菓子なのでした。

 

日本の「お団子」にみる、ボリビアの郷土菓子の輪郭

「ラパスのパンだ」という誇りもありながら、究めて身近な存在でもある。つまり、「特別だけど、日常でもある」。

つじつまがあわないように思えるけど、「日本にこんな食べ物ってあるかしら?」と考えていたら、ひらめきました! それって私たちにとっての「お団子」のような存在なのでは!?

 

▲photo by KAZUKOOKI(https://pixabay.com/ja/users/KAZUKOOKI-3097132/
 

団子は、日本古来の米食法の一種が原型とされていて、現代に通じる串に刺さったお団子スタイルは、室町時代に流通したそうです。

江戸時代に入ると、都市部では甘味付き団子がつくられるようになり、庶民の茶席や行楽のお供に。一方で、農村部では主食や非常食として食されるなど、「食事」でもあり「おやつ」でもあり、団子のもつ意味合いはさまざまだったようです。

そして言わずもがな、「お月見団子」「お花見団子」「みたらし団子」など、地域や季節によっていくつもの種類がありますよね。

……そう、日本の郷土菓子「お団子」について考えてみたら、イエマの郷土菓子としての輪郭が、くっきりと見えてきたのです。

「郷土」というものを、国という単位では一概に分けられないことと同じように、「菓子」という言葉の意味合いも、地域やそこに住む人々によってさまざま。

イエマ、そしてロファスさんファミリーに出会えたからこそ、旅と郷土菓子のストーリーを届ける「旅するパティシエ」としてもつべき、大切な視座を得ることができたように思います。

そんなボリビアの旅を経て、次回はパラグアイを舞台とした「世界の郷土菓子をつくる旅」の様子をお届けします!