【愛知県豊田市】「作る側も食べる人の顔が見たいの」約4000㎡の畑をただ一人で管理しつづける「うさぎや菜園」 | おうちごはんラボ

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【愛知県豊田市】「作る側も食べる人の顔が見たいの」
約4000㎡の畑をただ一人で管理しつづける「うさぎや菜園」

オフィシャルメンバー 旅人料理編集部

自動車の「トヨタ」の町として有名な、愛知県豊田市。

 

中心部から少し離れると、のどかな田園風景が続きます。

お隣の岡崎市に抜ける途中にある「松平」という地域で3年前から農業を始めた「うさぎや菜園」があります。

 

約4000㎡の畑で、季節ごとに多品種の無農薬無化学肥料で野菜を作っているのは、中根愛可さん。「うちの売りは、うさぎとロケーションだから」と見せてくれた畑の一つは、豊田市中心部から車で30分も走っていないとは思えない見晴らしの良さ。

 

引退生活の幕開け

中根さんは、20代をアメリカで過ごしていたこともあり、早く仕事を引退するのが人生のスティタスであると感じ、40歳になったら仕事を引退すると決めていました。その一方で、40歳前に働いていた地元の養鶏場で、野菜や野菜を育てることに少しずつ興味をもちはじめます。

 

今でこそブームになっている産直市。しかし、10年以上前の田舎で野菜を育てている高齢の方の卸し先はあまりありませんでした。中根さんが勤めていた養鶏場のたまご販売所は、近所の方の要望を受け、産直コーナーが設けてあり、地元の農家さんが出入りしていました。

 

「近所のおじいちゃん、おばあちゃんと話をして過ごしているうちに、お年寄りにとって、自分の育てた物を販売できることは、生きがいにつながるんだ。生産者も客さんもお店もみんなはハッピーなシステムだと思ったんです」

 

そうして農家さんの存在を意識し始めた中根さん。次第に高齢者の方に対していろんな疑問が芽生えていきます。

 

「どうしてこの人たちは、こんなに元気なんだろうか?」

「新鮮な野菜を食べるって、本当に体にいいのだろうか?」

「どうして、こんなにも立派な野菜を育てられるんだろうか?」

 

「もしかしたら、畑仕事が将来の寝たきり防止になるかも」と思うようになった中根さん。

 

一つの品種の種を撒けるのは、1年に1回。早く始めれば始めるほど、歳を取ってからも、経験が体力をカバーしてくれるかもしれないと考え、40歳を迎え養鶏場を引退すると、早速季節ごとに大浦ごぼうやウスイエンドウなど、さまざまな固定種や伝統野菜の種をまいてみました。自給自足に近い生活を営む親戚の影響もあり、初めから無農薬だったといいます。

 

野菜の奥深さに魅了されて

自由な時間を過ごしながら、季節ごとに野菜を育てていると、ある時、それまで順調に収穫できていたのに、うまく収穫できなかったことがありました。

 

それをきっかけに、「何がちがうのか」「どうしたらうまくできるのか」など、疑問があとから、あとから湧いてきました。そんなこともあり、有機農家の研修生になることを決意。その流れで、新規就農をしました。

 

無農薬でやり始めたものの、自分の考えだけが正しいと思いたくないという理由から、座学を農大で学び、農薬や化学肥料を使う「慣行栽培」の農業塾にも通ったそうです。就農前は見ため優先で、「マルチ」と呼ばれる黒いポリエチレンフィルムを畑に貼っていませんでしたが、研修先で雑草の抑制や保温効果による成長促進などを学んだことで、マルチを使うようになりました。

 

誰かに何かを教えてもらうと、その度に一度は試してみるというのも、中根さんの信条。その中の一つに、発芽温度の管理があります。「発芽しないことには始まらないから、温度ばっかり測っている」といいます。

 

育苗時期には徹底した温度管理に手作り肥料、友達が自家採種した種で育てたものや愛知県の伝統野菜を育てることも、しばしば。それなのに、販売するときには自分のこだわりポイントをほとんど言わないそうです。

 

「自分の手から離れたら、もう自分のものじゃないからね。料理を作る人に任せる。なるべく早く食べて欲しいとも思うけれど、冷蔵庫で1ヶ月置いていても、それはそれ。食べる前に、イメージがいい情報があると、もっとおいしく感じるかもしれないし、食卓の話題になるかもしれないって思うけど……。ただのセールストーク下手だね」

 

そんな風に話す言葉のうらには、「無農薬だからおいしい。ではなく、ただ、目の前の野菜を味わってほしい、おいしいと感じてくれれば、それでいい」という想いや、「自分が作った野菜は長持ちするから大丈夫」という自信をも感じられました。

 

そんな中根さんの畑には、春菊、イタリアンパセリ、セロリ、みつば、と香りの強い野菜が育っていました。聞くと、虫の集まりやすい春先は畑に虫が寄らないように、虫のつきにくい野菜を育てているのだとか。

 

「楽したいんだよね、虫と戦っても負けちゃうから」

 

軽く笑い飛ばしながらも、どうすれば一人でただ広い畑全体を管理し、無農薬でおいしい野菜を作れるかを追求しています。

 

 

「野菜狩りで、“顔の合わせる”やりとりを」

このように毎日畑に夢中になっている中根さん、「どんな食事を摂っているんだろう?」と疑問に思って聞いてみると、至ってシンプル。

 

作り方は「焼くか茹でる」。味付けは「塩か醤油」――。

 

それだけで十分といいます。とれたて野菜ならではの、何ともぜいたくな食事に思えました。さらに、お友達のお料理上手さんが代わりに料理を作ってくれることも多いそうです。そんなお友達のレシピ「セロリのパスタ」(http://www.mainichigrillbu.com/ouchigohan/recipe/3162/)を教えてもらいました。

 

 

今回使ったセロリは、セロリを大きく育てるために摘み取った、セロリの脇芽の部分。普段捨てがちな、セロリの茎や葉ですが、味もおいしいといいます。茎は長く茹でることで、甘みが強くなり、とろりとした食感に。

 

茹で汁にだし汁を使うのは、セロリのうまみを引き出すだけでなく、スープパスタやスープとしても食べられるから。セロリの香りがしっかり出ているので、パスタを茹でた後、そのまま他の食材を加えて煮込めば芳醇な香りのスープのできあがり。1度に2度おいしいレシピです。

 

「足りないものがあれば、畑に走ればいい」。そんな風に、自分の畑で育ったものを、料理してもらうのが、本当にうれしいと、この日も畑と台所をなんども往復してくれました。こんな風にとれたて野菜を食べてもらえたらと、「ランチつき野菜狩り」を計画中です。

 

さらに、季節のおまかせセットの宅配だけでなく、畑に来て好きな野菜を自分でとってもらう、いちご狩りスタイルのような、消費者と顔を合わせる機会を増やしたいと思っています。作る側も、食べる人の顔が見えるのと見えないのとでは、思い入れが変わるそう。

 

特に、外国人の方に来てもらいたいと思案中です。アメリカに長く住んでいたこともあり、海外における食の意識の高さ、英語が堪能なこともあり、自分だからできる農家としての役割を考えているようです。

 

農家として「イチローを超えたい」

それにしても、女性一人で、高台の畑の他にさらに2つの畑。

 

「嫌になったりしないですか?」と聞くと、「時間も、畑も、機械も全部そろっているからね。

何かがなければ、言い訳できるけど、全部そろっているから、できない理由並べたくないよね。

季節に乗り遅れちゃうし。そろっている分、喜んでやらないといけないって思うようになったかな。お子さんが嫌いだった野菜を食べるようになったって教えてもらうと、やったーってなるね」。

 

1年、2年と野菜作りをしていくうちに、手をかけたらかけただけの結果が得られるわけではなかったり、天候によるトラブルで作業が進まなかったりと、大変なことが多い農業。さらに去年やったことが100パーセント通じないからこそ、平等な職業だと感じているようです。

 

そんな中根さんは野菜の収穫について「4割」を目指しています。

中根さんいわく、化学肥料を使った慣行農法は、どんな手を使ってでも、10割を目指しますが、

無農薬で最低限の肥料しか使わないとなると、「エリート」しか育ちません。

 

「野球界で、イチローは3割打てばすごいんでしょ? じゃあ私は4割〜5割できればいいかな。
慣行農法の野菜だっておいしいものはおいしい、無農薬だと、自然に淘汰される数が多いけど。最後まで育った子はエリートだから、どれもみんなおいしいのかな、それは食べた人が決めたことだけど」

 

その、力の抜け加減が、なんとも中根さんらしい。中根さんの畑を訪れ、自分で野菜をもぎる人が行き来する畑になる日は遠くないだろうと思いました。