【世界の郷土菓子をつくる旅Vol.3】現地在住50年の日本のお母さんに習う!? パラグアイの郷土菓子「アルファフォーレス」づくり | おうちごはんラボ

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【世界の郷土菓子をつくる旅Vol.3】現地在住50年の日本のお母さんに習う!?
パラグアイの郷土菓子「アルファフォーレス」づくり

オフィシャルメンバー 旅人料理編集部

こんにちは! 旅するパティシエ・鈴木文です。

 

お菓子ブランド「世界のおやつ(http://traveling-pp.com/sekainooyatsu/)」を主宰し、カフェのプロデュースや、メディア・イベントなどを通じて、旅と郷土菓子のストーリーをお届けしています。

 

そんな私のお仕事の礎になっているのが、世界一周の旅の経験。これまで世界50カ国以上を訪ね、500種類以上の郷土菓子を学んできました。

 

その旅は、ただ見たり食べたりするだけの旅でなければ、単なるレシピ調査でもありません。現地の人々と一緒に、現地のお菓子をつくりながら旅することで、その国や地域の歴史・文化・風土を紐解いていく旅。

 

第2回(https://www.mainichigrillbu.com/ouchigohan/column/3142/)では、ボリビアの首都ラパスにあるベーカリーで郷土菓子「イエマ」づくりの様子をお伝えしました。

 

そして今回は、南米・パラグアイを舞台とした、「世界の郷土菓子をつくる旅」の様子をお届けします!

 

 

パラグアイならではの「郷土菓子」って?

南米大陸の中央南部に位置し、三方をブラジル・アルゼンチン・ボリビアに囲まれたパラグアイ共和国。
先住民のグアラニー族と、植民地時代にやって来たスペイン人による、メスティソの文化圏が大部分を占めています。

 

海をもたない内陸国のため、パラグアイ川が重要な交通手段を担い、首都のアスンシオンは国際貿易港として栄えてきました。

 

かつての宗主国がスペインだったことから、食事はもちろんのこと、郷土菓子もスペイン由来のものが大半を占めます。

 

そのため、この国ならでは……というよりも、似た歴史的背景をもつアルゼンチン・ペルー・ボリビアなど周辺国でみられる郷土菓子が、やはりここパラグアイでも一般的。

 

そして、その象徴ともいえるのが「アルファフォーレス (Alfajores)」。厚みのある2枚の焼き菓子の間に「ドゥルセ・デ・レチェ (Dulce de Leche)」というクリームをサンドしたお菓子です。

南米を代表する郷土菓子といっても過言ではないこのアルファフォーレスですが、ペルー、ボリビアと南米の旅を続けてきたにも関わらず、未だ現地の人々と一緒にこの郷土菓子をつくりながらの取材ができていなかった私。

 

というのもこのお菓子、南米での人気があまりにも高く、パティスリーをはじめ多くのお店では、外部の工場などから大量に仕入れているケースが多いのです。つまり、実際につくられている現場を目にすることすら難しい状況。

 

南米でアルファフォーレスの取材をできないで、“世界の郷土菓子をつくる旅”なんて言ってられないな……。ちょうどそんな焦りを感じはじめていた頃、なんとパラグアイですてきな出会いが待ち受けていたのでした。

 

 

パラグアイの郷土菓子の先生は、日本のお母さん!?

今回パラグアイの郷土菓子について取材させてくれたのが、こちらの宇都志恵子(うと・しえこ)さん。首都アスンシオンで、旦那さまの徳顕(のりあき)さんと一緒に、日本人向けゲストハウス「ペンション・アミスタ(PENSION AMISTAD)」を営んでいます。

そう、お名前からもお顔からもわかるとおり、パラグアイ在住の“日本人”ご夫婦なのです。

 

「パラグアイの郷土菓子を日本人に習うって、ちょっと違うんじゃない?」と思われるかもしれませんが、ご安心を。こちらのご夫婦は約50年前に、それぞれのご両親と共にパラグアイに入植された、いわゆる日本人移住者。

 

ご存知の方も多いと思いますが、戦後復興の一環として、当時の日本政府は中南米各国と移住協定を結び、海外移住を促進。特に有名なのはブラジル、アルゼンチンですが、1956年にパラグアイともこの協定が結ばれました。

 

そんな時代の中にあって、鹿児島県出身のお二人は、志恵子さんが1959年に、 徳顕さんは1967年に、それぞれパラグアイに移住。

 

到着して間もない頃は、原生林を切り拓いた土地で暮らし、その後志恵子さんはパラグアイで看護師として活躍、徳顕さんは日本人居住地の開設に尽力されるなど、パラグアイの歴史と共に生き抜いてきました。

 

そんなお二人からは、日本人移住者の歴史についてはもちろん、パラグアイのさまざまな文化についてもお話を聞かせていただきました。その中でなんと、志恵子さんはお子さんのために、昔からアルファフォーレスをよくつくっていたということが判明!

 

郷土菓子の取材をする上で、言葉の問題も含め、先生としてこれほど最適な方はいない!

 

……というわけで、ペンション・アミスタに宿泊しながら、パラグアイの郷土菓子について取材させていただきました。

 

 

首都・アスンシオンの街へ、買い出しへ!

まずは、ご夫婦と一緒にアスンシオンの街へと買い出しに。今回つくるアルファフォーレスのポイントとなる材料は、以下の2つです。

 

  1. コーンスターチ

中南米原産のトウモロコシは 、米・小麦と並ぶ世界三大穀物のひとつ。日本では野菜感覚で食されることが多いのですが、南米では主食となる最も重要な穀物です。

 

そのため、日本のスーパーマーケットで粉モノが置かれているエリアには「薄力粉」などが多いのですが、ここパラグアイでは「コーンフラワー」「コーンスターチ」など、とにかくトウモロコシだらけ!

 

アルファフォーレスももちろん、主となる粉モノは「コーンスターチ」なのです。

 

  1. ドゥルセ・デ・レチェ

ドゥルセ・デ・レチェは、スペイン語で“甘い牛乳”という意味で、コンデンスミルクにあたるもの。

 

コンデンスミルクを缶のまま、熱湯で4時間ほど火を入れるとキャラメルになります。これを「ドゥルセ・デ・レチェ」と呼んでいて、多くの中南米の郷土菓子に使われている材料です。

 

コンデンスミルクからつくると数時間を要するので、店内にはこのように、手軽に使える状態の商品がたくさんありました!

 

 

パラグアイの郷土菓子レッスンがスタート! 

さて、材料調達も完了して、いよいよパラグアイの郷土菓子、アルファフォーレスづくりがスタート! 前述のとおり、使う材料の内、特にポイントとなるのが「コーンスターチ」です。

 

コーンスターチは、トウモロコシ粉からつくられる純度の高い澱粉。他の粉類とは違ってグルテンを生まない上、吸水性が低いため、軽い仕上がりになるのが特徴です。結果、サクサク・ホロホロとした独特の食感になります。

 

基本のスタイルは丸型で、厚めに成形し、焼き色を付けません。また、ライムとバニラが香る甘さ控えめのクッキー生地に、甘いドゥルセ・デ・レチェを薄くはさむことで、絶妙なバランスの味わいが生まれます。

 

仕上げにサイドを「ココナッツファイン」という粉末で装飾するのも、南米ではお馴染みのスタイル。

 

 

大陸、そして海を渡った“旅する郷土菓子”

この郷土菓子は、かつての宗主国であるスペインから伝わったもの。ですがなんと、そもそもの誕生の起源は中近東といわれ、「アルファフォーレス (Alfajores)」という名前も、アラビア語の「はさむ」という言葉に由来していると考えられています。

中近東で誕生した郷土菓子が、イスラーム勢力のイベリア半島侵攻の際にスペインにもちこまれ、その後の大航海時代にスペインから南米にまで伝わったという、壮大な歴史物語が背景にあったのです!

 

スペインのアルファフォーレスは、南米のそれとは違って、ナッツとハチミツを使った長細い形のもので、あくまでクリスマスの時期に食べられるお菓子。

 

南米ではヨーロッパと同じ材料でつくることが困難だったため、内容・つくり方が少しずつ変わっていき、それが今日の、いつでもどこでも食べられる南米版アルファフォーレスになったのだとか。

 

 

アルファフォーレスで、日本とパラグアイをつなぐ

志恵子さんがアルファフォーレスを手づくりするようなったのは、義姉さんにつくっていただいたことがきっかけ。あまりのおいしさに感動し、それ以来お子さんたちにつくってあげるようになったといいます。

 

今では社会人として日本に住む娘さんが、当時と同じレシピでアルファフォーレスをつくり、それを志恵子さんに報告してくれるのだと、うれしそうに話してくれました。

 

そして最近では、志恵子さんが日本に戻った際に都度、親戚や友人のためにアルファフォーレスをつくってあげているのだそうです。

 

「日本人移住者として、パラグアイと日本をつなぐ架け橋になれれば」。そんな想いをもって、パラグアイの文化を伝える手段のひとつとしてはじめた郷土菓子づくりでしたが、これが予想以上に好評でした。

 

そう、志恵子さんにとってのアルファフォーレスは、親と子、そして日本とパラグアイをつなげてくれる、大切なコミュニケーション・ツールなのです。

 

私自身、パティシエとして、単なるモノとしてではなく、コトとしての食の価値を、今回の取材で改めて考えさせられたように思います。

 

そんなパラグアイの旅を経て、次回はアルゼンチンを舞台とした「世界の郷土菓子をつくる旅」の様子をお届けします!