「野菜の命を生かしたい」。千葉県南房総の地でタイ野菜の6次産業に取り組む「大紺屋農園」 | おうちごはんラボ

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「野菜の命を生かしたい」。
千葉県南房総の地でタイ野菜の6次産業に取り組む「大紺屋農園」

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千葉県の南端に位置し、花の名所や枇杷の栽培で知られる南房総市。

 

今回ご紹介するのは、その南房総市でタイ野菜やイタリア野菜を育てる「大紺屋(おおごや)農園」の足達智子さんです。足達さんが営む大紺屋農園は「岩井海岸」という海岸からすぐ近くのところにあり、東京からは車で1時間20分ほどの場所にあります。

 

大紺屋農園は、もともと、足達さんの実家が長年営んできた民宿「大紺屋」から名付けられています。大紺屋という屋号にあるように、昔は「紺屋(こんや)」、つまり藍染の染物屋をやっていた時期もあったそう。

 

その民宿は団体客専門の宿でした。大学のサークルや小学校の臨海学校などに利用されてきましたが、今後少子化を見越した判断で、4年前に宿をやめることになりました。ただ、先祖代々守ってきた農地は守りたいという思いで、東京で働いていた足達さんは南房総にUターンし、2014年から本格的に農業を始めることになりました。

 

 

南房総の土地でタイ野菜を育て始めた理由

農園は全部で4つあり、7月終わりに行った取材では、そのうちの2つの農園を見せていただきました。

 

見せていただいた農園では、「プリッキーヌ」というタイの唐辛子や、「ホーラパー」というグリーンカレーには欠かせないタイバジルが育てられていました。どれも聞きなれない名前ばかりです。

 

足達さんがこの南房総の土地で、タイ野菜という珍しい野菜を育てるにいたった背景には、タイ好きな友人の存在があったといいます。

 

 

「東京で働いていたときに、タイに夢中になっていた友人がいました。その友人は、わたしが何度断ってもタイに誘ってくるんです。しつこいなぁとずっと思っていたんですが、ついに根負けしてしまって1週間ほどタイに行きました」

 

そのタイの滞在中に、日本では想像できなかったさまざまな光景を目にしたという足達さん。安くておいしいタイのごはんもその一つ。そこからタイにハマってしまって、何度もタイに行くようになりました。

 

「タイ料理にハマり、自分でも作れるようになりたくなって、タイの料理教室に通うようになりました。当時は、いつかタイ料理のレストランを作る!とか、タイ野菜の農園を日本でやる!などの野望はなく、純粋にタイ料理が好きでしたね」

 

▲グリーンカレーには欠かせないホーラパー(タイバジル)

 

帰国後、足達さんはタイ料理を作ろうとしますが、日本ではタイの食材がなかなか見つからないことに気づきます。

 

「もしあったとしても、空輸して時間が経って色が変色しているもの。農薬は使ってないかな?とか安全面も気になりましたね」

 

実家が農家のため、畑で採れた新鮮な野菜を食べるのが当たり前だった足達さん。料理を作るなら安全でおいしいものがいいと、タイ野菜を育てることになったようです。

 

タイの唐辛子、プリッキーヌ

 

すると、タイ野菜を作り始めて1年目で、大手企業やレストランから声がかかるようになりました。口コミでも足達さんの作る野菜が広がり、タイ人の方が農園に足を運ぶほどまでに。

 

足達さんは、南房総の気候はタイ野菜の栽培に適しているといいます。

 

「タイは年中暖かく湿気の多い地域で、南房総の気候もそれに近い。日本には四季があるので夏はタイ野菜を育てて、イタリア野菜は年中育てています。毎年いろいろな試行錯誤をしながら進めていますね」

 

今後、どんどん暖かくなり、雨も増えるだろうと予想されている日本。そういった条件でも育つことができるタイ野菜は、今後需要が伸びるのではないか?と考えられているそうです。

 

▲ロマネスコ

 

また大紺屋農園ではタイ野菜だけではなく、イタリア野菜なども育てています。イタリア野菜は、もともとおじいさんが育てていたものでした。

 

「イタリア野菜はすっごくかわいいと思って育てています。例えば『ロマネスコ』という野菜は、形がとてもかわいくて、食べるだけじゃなくて目で見ても楽しめます。この前は、トンダビアンカ茄子というイタリアのナスに目玉をつけてみました。野菜嫌いの子どももいるので、こういった風に提案するのもありだと思うんですよね」と、イタリア野菜の新たな可能性も探っているようでした。

 

 

生活の中のヒントから作り出す「加工品」

足達さんは野菜を育てるだけでなく、それらを使って加工品の販売・製造までしています。これは、生産者が「作り(1次)、加工し(2次)、販売(3次)」まで取り組んでいることから「6次産業」と呼ばれています。

 

「捨てるのがもったいないと思っちゃうんですよね。以前まで民宿をやっていたので採れすぎた野菜はお客さんにふるまうことができたのですが、もう民宿はやっていなので。わたしは、野菜の命がもったいないと思うので、どうにかして生かしてあげたいという気持ちがありました。そして、自分でも使いたいという気持ちから、加工品の製造販売を始めました」

 

足達さんが作っているのは、タイの唐辛子プリッキーヌスワンを使った一味や、タバスコ風の調味料「プリスコ」「ホーリーバジルティー」など。ホーリーバジルとは日本ではガパオライスに使われるガパオのことです。一味は小瓶にいれてあるので、女性などでいつも持ち歩いている人もいらっしゃるんだとか。

 

加工品を作るヒントは、買い物に行ったときに「これ便利だな、いいな」と思ったものを積極的に取り入れるようにしているそうです。

 

 

「悩んでいるときは必ず励ましてくれる人が現れるんです」

ご両親には、農業を続けていることを「よくやっているね〜」と言われるという足達さん。

 

「でも、好きだから続けられるし、加工品販売も、好きだから続けられていますね。朝、農園で野菜たちに “おはよう!” や “元気に育ってね!” と声をかけることも少なくありません」と笑います。

 

手間暇をかけて作っている野菜を取り扱うレストランから「お客さんから評判いいですよ!」と連絡をいただいたり、買ってくれたお客さんから料理の写真が送られてきたりすることが、励みになっているんだそう。

 

「農業はすごく大変だけれど、悩んでいるときには必ず励ましてくれる人が現れるんです。そのタイミングの良さに、いつもがんばろうって思えます。つい先日も “おいしかったよ” と道の駅でお客様から声をかけられました。言葉もうれしいですけど、その言葉を発しているときのその人の顔が本当にうれしそうなんです。そういう表情に出会うと、農業をやっていて良かったなと思いますね」

 

足達さんの野菜には、珍しい野菜というだけではなく、露地栽培や農薬不使用、そして足達さんの人柄などたくさんの付加価値がたくさん詰まっていました。

 

 

※プリッキーヌ(タイの唐辛子)を使った足達さんおすすめのレシピはこちら