60歳から専業農家へ!第二の人生を農業に賭ける本多さんの「越前さといも」 | おうちごはんラボ

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60歳から専業農家へ!
第二の人生を農業に賭ける本多さんの「越前さといも」

オフィシャルメンバー 旅人料理編集部

里芋の産地として有名な福井県奥越地方。

 

「調理しても煮崩れせず、どんなアレンジにも合う」

「しっかりした歯ごたえがおいしい」

 

そんな風に評価する声も多い ”越前さといも(奥越さといも)” は、味も販売のされ方も、他の地域の里芋とはちょっとちがいます。

 

今回は、奥越地方の福井県勝山市で60歳から農業に専念することを決意した本多範行さん(61)に、越前さといもの魅力や専業農家としての決意、秋から始めた新たな取り組みなどについてお話を伺ってきました。

 

 

公務員から専業農家へ。60歳からの挑戦

東京から北陸新幹線と特急を乗り継いで3時間半。福井駅でローカル鉄道「えちぜん鉄道」に乗り換え、1両編成の電車に揺られながら美しい山川や田園風景を眺めていると、1時間弱で「えちぜん鉄道 勝山駅」に辿り着きました。

 

国の文化財に登録されているレトロな駅舎を出ると、出迎えてくれたのは本多さん……ではなく、大きな恐竜!

 

実はここ福井県勝山市は、日本を代表する恐竜化石の産地。市内には世界三大恐竜博物館に数えられる「福井県立恐竜博物館」があります。そのため、まちのいたるところで恐竜のモニュメントや足跡のペイントを目にすることができます。

 

また、勝山駅の少し先からは、一級河川の九頭竜川と、勝山市の有名観光スポットであり、坐像としては日本一大きい大仏と五重塔を擁する「大師山 清大寺」が見えます。

 

到着して早々、勝山市の大自然や観光スポットに驚きが止まりませんが、今回の舞台はここから車で10分ほどの場所にある、勝山市荒土町。

 

見渡す限り山と田園風景が広がる中に、ひときわ大きな民家がありました。

 

ここが本多さんのお宅。「ふくいの伝統的民家」として福井県に認証されており、まさしく農家の家という雰囲気。

 

自宅と蔵の奥にある小屋に向かうと、本多範行さん(左)と息子の啓介さん(右)が出迎えてくれました。

 

本多さんは昭和32年生まれの61歳。「江戸時代には農家だったんじゃないかなあ」と話すほど古くから農業を営むこの家に生まれ、昨年までは農業試験場で公務員をしていました。

 

これまでは仕事のかたわら土日に農業を営む兼業農家でしたが、今年定年退職したことを機に、専業農家としてのキャリアをスタート。「まだまだ農家1年生ですよ」と笑う本多さんでしたが、「70歳までは絶対に現役。親父は80を過ぎてもまだ現役ですから、私もずっと元気でいないとね」と、これからの農家としての人生に対する決意を話してくれました。

 

 

「秋空レストラン」で消費者も生産者もハッピーに

今年専業農家1年目をスタートさせた本多さんは、「とにかく効率化。どのくらいの規模で何をどう作ればいいものができて、きちんと利益を上げられるのか。そして、きちんと続けていけるのかを模索するために、いろいろな試算・試策を行っています。」と話します。そんな試策の1つとして10月から始まったのが、”秋空レストラン” 。

 

聞いたことがある気がする名前ですが(笑)「青空の下で食べるご飯が一番おいしい」と啓介さんが提案した、越前さといもの収穫・試食体験イベントです。

 

「昔は親がやっている仕事は子供が継いで当たり前。手伝いも楽しいと思ったことはありませんでしたね。以前は継ぐ気はなかったですが、公務員とはいえ結局農業に関わる仕事を長年続けてきたし、やるしかないという気持ちです。」と話す範行さんとは対称的に、啓介さんは小さな頃から農業への関心が高かったといいます。

 

大学時代は県外で農業経済を学び、卒論ではグリーンツーリズム(農山漁村などで滞在型の余暇活動を楽しむこと)を題材に取り上げました。海外に事例視察に行くなど精力的な活動をし、将来はお父さんと同じように農業に携わりたいと思っているそうです。

 

大学卒業後は、勝山の農業や観光に携わりたいと市役所職員に。現在は転職して市内の観光に携わる会社に勤めながら、休日は実家を手伝ったり、今回のようなイベントを企画するなど積極的に農業に関わっています。

 

「農業は大変というイメージがありますが、それよりも 『おいしい』 という感想をたくさんの人に持ってもらいたいですね。」

 

そう話す啓介さんと、それを静かに見守る範行さんの案内で、いよいよ秋空レストランのスタートです。

 

まずは、越前さといもの出荷フローやさといもの種類、奥越独特の食べ方について紹介がありました。越前さといもがどのようなものか見せていただくと……

 

あれ……白い!!

 

里芋といったら茶色や黒色の分厚い皮に覆われているイメージがありますが、手渡された越前さといもはむいた後のジャガイモのような白さ。しかし、 「越前さといも=皮が白い」 という訳ではありません。

 

 

越前さといもは、収穫後に土を落として箱詰めして出荷しますが、店頭で袋入りなどで販売されるものは、洗浄・外側の皮の処理が済んだ「洗い子」がほとんど。福井県外でも洗い子が販売されているのを目にしないことはないですが、かなり稀……かつ、そのほとんどが奥越さといものはずです。

 

洗い子だと、購入してすぐに調理ができること、薄皮がついているため(奥越の人は薄皮とよく言いますが、実際に薄皮かどうかは不明だそう。)外側がしっかりしており、煮くずれしづらいだけではなく、食感がしっかりしていることなどのメリットがあります。

 

秋空レストランでは、越前さといもが洗い子になるまでの過程も体験することができます。

 

本多さんの農地は現在6.5ヘクタール。お米を中心にそば・ネギ・大豆などを育てており、その一角にさといも畑があります。約6000株、5トンもの奥越さといもが育つ畑の向こう側には、恐竜の卵を模した恐竜博物館が見え、天気がいい日には、霊峰である白山ものぞむことができます。

 

こんな景色とおいしい空気の中で収穫体験がスタート。まずは里芋の大きな茎を刈り、シートを剥がします。

 

体験では、普段は機械で行うさといも掘りを、スコップを使って手で行います。しかし、上の茎を狩るのは普段も手作業です。今期は3日おきに200kg程度農協に出荷しなければならず、そのほとんどの作業を本多さんが機械と手作業を組み合わせながら1人で行うそうです。

 

スコップで掘る際の注意点は、さといもを傷つけないこと。株によって大きさがちがうので、どのあたりにスコップを入れるのかは全て勘。私もヒヤヒヤしながらやってみましたが、思った以上に深くまで育っている里芋を、やっとの思いで掘り出すことができました。

 

さといもはこのように親芋(種芋)の周りに子芋、孫芋と芋が繋がっていて、子芋の中からいいものを選別して来年の種芋にするために保管します。保管している間に腐ってしまうこともあるため、その保管だけでも神経を使う仕事だそうです。

 

また、奥越の農産物を取りまとめる「JAテラル越前」では、毎年種芋の品評会が開催されるそう。それだけ、この奥越地方ではさといもが重要な野菜であることが伺えます。

 

さて、このあとはまとまったさといもをバラす作業です。専用の三角形の器具に親芋をぶつけると、一つ一つがバラバラになっていきます。

 

この器具で取れなかったものは手作業でバラします。こうして、だんだんと普段お店で見るさといもに近づいていきます。この作業も普段と同じ。越前さといもの収穫は思った以上に手作業が多く、これをほぼ1人で行う本多さんのご苦労がよくわかりました。

 

バラした越前さといもは、土を落として箱詰めして農協に出荷します。

 

しかし、店頭で販売されるような洗い子になるには、まだまだいくつかの工程を経なければなりません。

また、サイズが小さくて出荷できないものは、自宅で食べたりおすそ分けしたりするために、本多さんの家でも普段から洗い子にする作業をしているそうです。

 

体験ではその工程も一つ一つ見ることができました。

 

まずは洗浄。ひと昔前まで主流だった「芋車 (いもぐるま) 」での洗浄も見せてもらいました。

 

仕組みは水車と同じ。この中にさといもを入れて水路にセットすると、水流の力で芋車が回り、中の里芋が勝手に洗われていくのです。

 

出てきたさといもは、土が落ちてかなりきれいになっていました。

 

現在は芋車ではなく、このような機械を使って自動で洗浄していくことが多いそうです。

 

機械にかけられたさといもは、同時に皮や根っこも取り除かれてかなりの白さに。

 

これを干して乾かし、さらに残った茶色い部分を一つ一つ包丁で丁寧にこそげて、やっと洗い子の完成です。

 

 

右が、洗い子として販売される越前さといもと同様の状態。左もすでにかなり白いのに、さらに真っ白にしてから販売されるとは、本当に驚きです。農協で洗い子にする際も、このように手作業で削って白くしているそうです。

 

これだけの人手と手間がかかって食卓に並ぶ越前さといも。いったいどのような味になるのかも気になりますよね。秋空レストランでは、その場で調理・試食までさせてくれるので、収穫後すぐに越前さといもを味わうことができました。

 

出てきたのは「越前さといものにっころがし」・「越前さといもの焼きおかかサラダ」・「すこ(さといもの茎の酢の物)」・「越前さといもと豚肉の味噌煮込み」・「越前さといもとベーコンのガーリック炒め」の5品目。

 

さといもの焼きおかかサラダのレシピはこちら

 

 

食べてみてびっくりしたのは、その食感。さといも独特のぬめりや粘り気が苦手な人もいると思いますが、越前さといもには余計な粘り気が一切ありません。煮っころがしでもしっかりとした歯ごたえが感じられ、これがさといも!? とびっくりしました。個人的にはとてもおいしくて虜になってしまいました。

 

食感がしっかりしていることもあり、まるでジャガイモのようにさまざまなアレンジができるところも魅力的。

 

さといも料理というと、皮をむいて、面取りして、煮っころがしにして……と面倒なイメージがありますが、越前さといもは洗い子の状態で売っているので、洗ってすぐに調理できるのが大きな利点。調理の様子も見せていただきましたが、とても簡単そうで、自宅でもやってみよう! という気持ちになりました。

 

本多さんは「この時期はいろいろなアレンジレシピで毎食2品目くらいは越前さといもの料理が食卓にのぼるよ」と話してくれました。これ以外にも、越前さといものコロッケもお気に入りだそう。

 

大満足の秋空レストランでしたが、本多さんにこのイベントの意図を尋ねてみると、こんな答えが返ってきました。

 

「消費者が何を求めているか知りたいんです。」

 

越前さといもの魅力を伝えたい、農業の楽しさを知ってほしい……。そんな答えを想像していた私には予想外でしたが、その理由を本多さんはこう話してくれました。

 

「体験を通して消費者と直接対話することで、『さといもっておいしいけど、たくさん食べられないよね』・『煮っころがし以外の食べ方がわからない』なんて声が聞けるじゃないですか。そしたら、もっと消費してもらうために生産者側が何をすればいいのかわかるようになる。」

 

秋空レストランは始まったばかりですが、これから、生産者と消費者どちらもハッピーになれるようなイベントになっていくのでしょう。

 

 

「まずは自分のこと」「手を抜くこと」がモットー

「これからの農業のこととか、福井、勝山のこととか、そんなに大きなことは考えていないんです。まずは自分のこと。何しろ1年生ですから。」と本多さんは言います。

 

農業だけでは生活が難しく、兼業農家が圧倒的に増えている昨今、農業でいかに利益を上げていくかを考えることは非常に重要なことです。

 

「農業はいかに効率化するかだと思っています。効率化のためには機械化が必要だけど、お金がかかりすぎるのが課題。コンバイン1台1,000万円とかしますからね。そして、それをクリアするためにはある程度規模を大きくする必要がある。どんな規模でどのように生産すれば最も効率がいいのかをいつも考えています。」

 

60歳で専業農家にシフトした本多さんは、現在6.5ヘクタールの農地を5年後には30ヘクタールにする目標を掲げています。お話を伺ったこの小屋も、規模拡大、効率化を見据えて新しく建てたものだそうです。

 

「いい意味で、いかに手を抜くかだと思うんです。いいものを効率的につくるのが一番いいことじゃないですか?そのためにどうすればいいか考えながら試すのが楽しいんです。」とも話してくれました。

 

また、越前さといもに限って言えば、3日に1回程度水を与えるタイミングや水の量、種芋の選定は本多さんのお父さん・多門さんが行っているそうです。

 

「職人なので、細かいところまで教えてくれないんです。『見て盗め!』という感じで。だから、これから引き継いで行こうと思っています。」と本多さん。

 

効率化と同時に農家としての勘も身につけるべく目下勉強中とのこと。専業農家1年生の本多さんの第二の人生は始まったばかりです。

 

 

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