【世界の郷土菓子をつくる旅Vol.9】 “世界一の美食の街”のお菓子工房に突撃取材!スペインでつくる郷土菓子「パステル・バスコ」 | おうちごはんラボ

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【世界の郷土菓子をつくる旅Vol.9】 “世界一の美食の街”のお菓子工房に突撃取材!スペインでつくる郷土菓子「パステル・バスコ」

オフィシャルメンバー 旅人料理編集部

こんにちは! 旅するパティシエ・鈴木文です。

 

お菓子ブランド「世界のおやつ(http://sekainooyatsu.com/)」を主宰し、商品開発やパティスリーの店舗プロデュース、メディア・イベントなどを通じて、旅とお菓子のストーリーをお届けしています。

 

そんな私のお仕事の礎になっているのが、世界一周の旅の経験。これまで世界50カ国以上を訪ね、500種類以上の郷土菓子を学んできました。

 

その旅は、ただ見たり食べたりするだけの旅でなければ、単なるレシピ調査でもありません。現地の人々と一緒に、現地のお菓子をつくりながら旅することで、その国や地域の歴史・文化・風土を紐解いていく旅。

 

第8回(https://www.mainichigrillbu.com/ouchigohan/column/7211/)では、ポルトガルの郷土菓子「パステル・デ・テントゥガル(Pastel de Tentúgal)」づくりの様子をお伝えしました。

 

今回は、ヨーロッパのスペインを舞台とした、「世界の郷土菓子をつくる旅」の様子をお届けします!

 

 

スペインって、どんな国?

西ヨーロッパはイベリア半島の大部分を占める国・スペイン王国。ポルトガルと同様に、15世紀半ばから17世紀半ばまで続いた大航海時代を牽引し、かつては海洋帝国としてその名を世界中に轟かせた国です。

スペインの文化といえば、闘牛やフラメンコなどが有名ですが、これはかなり局所的なもの。カタルーニャやアンダルシアをはじめ、17の自治州が存在するスペインでは、各地域の民族意識が非常に高く、国として一括りにその文化を捉えることは至難の業です。

 

 

スペインならではの郷土菓子って?

郷土菓子をはじめとする食文化も例に漏れず、スペインの各地方・各地域によってそのバックボーンや特徴はさまざま。

そんな中でも、私が特に興味をもっていたのがバスク地方の食文化。先にも触れたとおり、17の自治州が存在するスペインですが、その一つがバスク州であり、特に民族的帰属意識が高い地域です。

ピレネー山脈を挟んで、スペイン北東部とフランス南西部にまたがるバスク地方。かつて統一国家として繁栄したこの地域は、16世紀にフランス・スペインに分割・編入されることとなったものの、その後もバスクの文化や風習を守り続けてきました。

一方で、海と山に囲まれ、元々豊富な食材に恵まれていたこの地域では、フランスとスペイン双方の持ち味をうまく取り入れたことで、独自の食文化が育まれることに。

お菓子に関していえば、スペインの名産であるアーモンドをふんだんに使用したものや、バターを贅沢に使うフランス菓子の影響を受けたと思われるものが、数多く存在しています。そしてその象徴的な郷土菓子が、今や世界的に知られる「ガトー・バスク(Gâteau basque)」です。

 

 

バスク地方を目指して、「世界一の美食の街」へ!

「ガトー・バスク」という呼び方はフランス語で、スペイン語では「パステル・バスコ(Pastel Vasco)」‥‥つまり“バスクのパイ”、“バスクのケーキ”と呼ばれています。

この生粋のバスクの郷土菓子を求めて今回私が目指したのが、スペインはサン・セバスチャン

バスク地方の中心地はビルバオという街ですが、近年“世界一の美食の街”として脚光を浴びているサン・セバスチャンを目指せば、バスクの郷土菓子についてより深く知ることができるかもしれない!‥‥と期待していたのでした。

 

‥‥というわけで、ポルトガルから夜行列車で行くこと約11時間、スペインはサン・セバスチャンにやって来ました! 早速、中心部の旧市街を散策してみると、そこにはヨーロッパらしい美しい街並みが広がっていました。

一方で、前述のとおり歴史的な領域としてのバスク地方は、フランスとスペインの両国にまたがっているため、街中では時折、強いメッセージ性を帯びたこんな落書きも見かけます。

ただ、体感としては街中の雰囲気はいたって平和的で、かつ、昼夜問わず多くの人で賑わうバルが軒を連ね、さすが“世界一の美食の街”と素直に納得してしまうほどの活気に満ちています。

 

 

サン・セバスチャンの老舗パティスリーへ突撃取材!

バルだけでなくパティスリーも大盛況で、そこには期待していたとおり、バスクの郷土菓子がずらり。もちろん、目当てのパステル・バスコも発見することができました!

一軒一軒、突撃取材を続け、そしてついにパステル・バスコを一緒につくらせてもらえることになったのが、なんと1972年創業、サン・セバスチャンを代表するパティスリーのひとつ!

まさかこんな老舗の工房で、そしてここバスクの地で、パステル・バスコを一緒に作らせてもらえるなど夢にも思っていなかったので、一歩足を踏み入れただけで、卒倒しそうなほどの感動でした!

 

 

「パステル・バスコ」の郷土菓子レッスン、スタート!

今回、私の先生を務めてくれたのは、パティシエのファン・マヌエル・ムニョスさん。16歳からパティシエをはじめたという、この道20年の大ベテランです。

本場のパステル・バスコづくりのポイントや、このパティスリーの秘伝のレシピなどを教えてくれるだけでなく、お菓子の背景にあるストーリーも丁寧に教えてくれました。

 

バスク地方でこのお菓子が誕生したのは17世紀頃とされ、遠洋漁業へ出かける漁師のために、家族が準備した「日持ちするお菓子」がその起源だといわれています。

19世紀に入って、“フランス領のバスク”であるイッツァス・イクサス村の特産品「スリーズ・ノワール(Cerise Noire)」というダークチェリーの一種を中に詰めてみたところ、これが大好評となり、それ以降バスクの郷土菓子「ガトー・バスク」として定着したという説が有力なのだとか。

 

しかし興味深いのが、そもそもは「日持ちさせる」ことが重要だったため、ガトー・バスクが誕生した当初は、何も挟まれていないビスケットのようなお菓子だったのだとか。

それを裏付けるように、ガトー・バスクのことを、バスク語では「Biskotxa=ビスコッチャ」と呼ぶのですが、この言葉はなんと、フランス語の「Biscuit=ビスキュイ」と同じ意味なのだそうです。

 

日本で広く知られているガトー・バスクは、ラム酒を混ぜ込んでいるものが一般的かと思います。

しかし、ここ“スペイン領のバスク”で一緒につくらせてもらったパステル・バスコは、「コアントロー(Cointreau)」という爽やかな柑橘系のリキュールを生地に混ぜ込み、アーモンドスライスを飾り、香ばしさを倍増させるレシピでした。

 

前述の“フランス領のバスク”で生まれた元祖 ブラックチェリー入りガトー・バスクよりも、“スペイン領のバスク”で主流の、カスタードクリーム入りガトー・バスクの方が美味しいと思う! そしてその中でも、ウチのお店のガトー・バスクが一番!‥‥と語ってくれたのは、パティシエのフアンさん。

同じ郷土菓子でさえ、所変わればそこには大きな違いがあって、ひと口に「バスク」というレッテルで片付けることはできないのだと思う反面、多くのバスクの人々が共通して持っているであろう、「バスクの誇り」も感じた瞬間でした。

 

 

バスクの郷土菓子から思いを巡らせる、自身の「郷土」

実際に一緒に作らせてもらった、出来立てのパステル・バスコをパクリ!

外はカリカリ、でも中はフンワリとした食感の変化が絶妙! シンプルで素朴な郷土菓子ですが、その分、バターの旨味やアーモンドの豊かな香りなど、素材の美味しさを贅沢に味わえます。

 

ただ作り方を教わるだけでなく、バスクの郷土菓子を通じて、バスクの人々の郷土愛も感じることができた、サン・セバスチャンの工房でのひととき。

工房にいるパティシエが皆、郷土菓子、そしてバスクの歴史や文化について驚くほど精通していることが、非常に印象的でした。

私は彼らのように、自分の生まれた国や地域の文化について自信を持って語れることが、なにか一つでもあるだろうか?

身近にあるからこそ見落としがちな、感謝することさえも忘れがちな、自分の「郷土」というものを、彼らのように胸を張って表現できるパティシエでありたい。

そんな想いを芽生えさせてくれた、今回の郷土菓子レッスン in バスクなのでした。

次回はフランスを舞台とした「世界の郷土菓子をつくる旅」の様子をお届けします!

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