2019.10.23UP
フィリピン・セブ島で300人分の炊き出しに挑戦!1人でも多くの「おいしい!」に出会うために
日本で保育園の栄養士として3年勤めていました、私。給食の時間にふと、「他の国でも、子どもたちが食事の時間を楽しみにするような場所があれば関わってみたい」と思うようになりました。
そこで東南アジアを中心に、現地のNGO団体や個人で食に関わる活動している方を片っ端から調べて連絡を取り、受け入れてくれるところに行こうという、体当たりな計画を思い立ちました。そして次の年には仕事を辞めて、タイの孤児院や寄付で食材を募って誰でも食事が取れるベトナムのレストランなどを手伝って回り、フィリピン・セブ島に向かいました。
やって来たのは、セブ市内から車を20分程走らせた場所、「サンバッグ」という英会話学校の密集するエリアから少し離れたスラムです。
400人以上もの貧しい子どもたちが住むスラム
数百の貧しい世帯が暮らすこの地域で、2008年から活動しているコミュニティ「RISE ABOVE COMMUNITY CENTER」があります。ここでは、寄付で募った本やおもちゃ、フィリピンの人たちが好きな音楽も楽しめる場所を提供しています。
他にも他の国から来たボランティア数人が寝泊まりしていて、私が行った時は英語を教えるオーストラリアの学生や、ドイツから歯科検診に来ている歯医者さんなどがボランティアとして活動していました。
今回私が参加したのはこのプログラムの一つ。このスラムの子どもたちに、栄養のある食事を取ってもらいたいという思いから始まったフードプログラムです。
参加者がスポンサーとなり、食材費(金額は自分で決められる)から買い出し・調理・提供までを全て行います。日本で仕事を辞めてきた私は、貯金と数十分相談し3万円を食材費に出すことにしました。なんと、これで300人分の食事がまかなえるとのこと。子どもたちは、たまに来るボランティアが作った温かい食事を楽しみにしていると聞き、張り切って買い出しに出かけました。
活気あふれる地元の市場とアカペラライブ
さっそく、お手伝い隊の地元の子たち4人と軽トラの荷台に乗り込みマーケットへ。子どもたちが「日本人が一人でウロウロしてたらカモにされるよ!」と明るく教えてくれたのです。
フィリピンの人は明るくて音楽が大好きです。この左側の男の子、6~7歳ですが、ハスキーボイスで歌がものすごくうまい! さっきまで普通に喋ってたのに、急に目の前で本格的なボイパが始まってびっくりしてたら、周りの3人も良い声で歌い出して、数分間軽トラライブを楽しませてくれました。
マーケットで購入した材料はこちら。トマト、長ネギ、人参、米……。今日のメニューはもう決まっています。フィリピンのお粥「ルーガウ」。
スラムの子たちが好きなメニューで、野菜とたんぱく質もしっかり取れ、さらに簡単で大量調理向きなのでここのプログラムでは毎回ルーガウを作ることにしたそうです。あと数時間後には作って出さないといけなかったので、何より調理が楽なのもうれしい。さらに私の希望で、栄養価の高い卵を入れることにしました。イメージは卵雑炊風です。
巨大鍋でルーガウ調理開始!
買い出しから戻ったらみんなで調理開始。どの年齢の子どもも食べやすいように、野菜は全てみじん切りにして、どんどん大鍋に入れていきます。ルーガウ自体、私も今まで名前しか知らなかったので、お手伝いの子どもたちに教えてもらいながら作り進めていきました。
300人分を作れる鍋なので、その大きさは子ども4人くらい入れそうな程。水もホースを使って入れてました。そして、この船のオールみたいな「巨大スパチュラ」というものでかき混ぜるのですが、具材が重過ぎて腕が疲れてくるので、みんなで交代で混ぜました。
調理開始から2時間。ルーガウも完成し提供時間まで残り1時間です。次は、ご飯と交換できる「ミールチケット」というものを発行し、スラム中を歩いて子どもたちに配って回ります。
イベント毎にスポンサーは違います。この日は私がスポンサーなので、私の名前がチケットに載り、今日のご飯を作った人の名前を知ってもらえるようになっています。
「ご飯作ったから11時半に食べにきてね! これとご飯を交換するから、無くさないでね!」と声をかけていきます。
開店5分前!子どもたちで賑わうランチタイム
提供時間5分前、配りやすいように洗面器にルーガウを移し、準備万端! お玉も無いので、一人1杯ずつコップですくって配っていきます。
門の外には、お皿持参で、小さいお客さんの列でいっぱいに。アイスの容器、缶詰の缶、タッパー、タッパーの蓋(!?)、コップ。底のある物は何でもお皿に変わり、みんなお腹を空かせて待っていました。
次から次へと子どもたちにルーガウを配り、みんながうれしそうに来た道を帰る姿を見ると、日本の子と変わらずかわいいなと思います。チケットの対象は子どもですが、親にもあげたいと多めに持って行く子もたくさん。
ただ、これは個人的な反省ですが、ルーガウを魔女のような大鍋でぐつぐつ煮込んであったため、鬼のように熱くなっていました。なのでタッパーなど薄い素材の容器を持って来た子は、とてもじゃないけど熱くて持てず、入れてから冷めるのを待つという謎の列ができてしまいました。もう少し早めに外に出して冷ましておけば良かったと反省。
1時間後、ずらーっと列に並んでいた子たちには全員行き渡り、残りは作った人たちのお昼ご飯に。材料に何の野菜を使ったのか一生懸命聞いてくる子もいて、今までただ空腹を満たすだけだった食事が、この炊き出しで自分が食べた物に興味を持ってもらえたことが嬉しくなりました。
また、卵を使ったのが良かったようで、「お粥に卵を入れた人」として子どもたちにも顔を覚えてもらえました。
さらにこのイベントの数か月後、現地スタッフのAdiから「子どもたちがすごく気に入って、また卵の入ったルーガウ食べたいって言ってるよ」とメッセージを貰いました。何気ない感想だったかもしれませんが、忘れられず今でも思い出すと嬉しいです。
サンバックの子どもたちから教わったこと
この体験は一日だけでした。私はこの数日後には日本に帰国。ボランティアは毎日ここに来ないし、セブ島にある全部のスラムには行けないし、他の国にも貧しい地域はたくさんあるので、一時的にこうやって関わることに疑問を持つ方もいるかもしれません。
それでも、たまたま今回はこの場所を選びましたが、また機会があれば別な場所でもやるつもりです。
温かい食事を友だちや家族と一緒に食べて、おいしいと思う感覚や体験は何歳になっても、どの国でもすてきなことのはず。今回の旅がそう感じさせてくれたきっかけであり、これからも1人でも多くの「おいしい」とうれしそうに笑う顔と出会えたらと思います。