香ばしさにビールがほしくなる、 インドのお手軽おせんべい「パパド」

インドにまつわるさまざまな噂を耳にしていた私が期待と不安、緊張のなかインドの首都・デリーの空港に降り立ったのは2011年のこと。

国によってにおいが違うというのは旅のネタのひとつだけど、そのネタの通りインドは空港から出た瞬間からスパイスの香りが!

溢れる香りに圧倒された初インド

まだ3月にもかかわらず、空港を出れば30度近い気温。そして、むせるような熱気が押し寄せてきました。

熱気の元は気温だけではなく、乗客を求めるタクシーやリキシャのドライバーたちのギラギラした目や声。それが刺さるように自分に注がれているのがわかり、さらに不安と緊張は高まるばかり。

バックパックのストラップを強く握りしめ、やっとの思いで一歩を踏み出しました。

街の中にはスパイスの香りが溢れていました。クミンやコリアンダー、ターメリック、ブラックペッパー、ナツメグ、シナモン……。さまざまなスパイスが空気中で濃厚にミックスされて毛穴から染み込んでくるよう。強いスパイスの香りが、いま自分がインドにいることを強く感じさせてくれました。

においはレストランや屋台からだけではありません。店先にずらりと色とりどりのスパイスを並べたお店や、路上にそのまま少量だけ置いて売っている小さなお店からも漂ってきます。

本場のインドカレーに添えられているものは

どこのレストランに入ってもあるのは「カレー」。ただ、カレーといってもその種類やスパイスの味付け、付け合わせはお店によって違います。

注文するとカレーといっしょに、ちょっとした副菜や漬物、生野菜、そして手のひらぐらいのきつね色の薄いせんべいのようなものが出てきます。

きつね色の薄いせんべいは、平たい形だったり、三角形に折られていたりするのですが、どこのお店でもだいたいカレーといっしょに盛りつけられていました。

インド人の食べ方をまねて食べてみた

地元の人を見ていると、薄いせんべいをそのまま食べる人もいれば、軽く割ってカレーに混ぜて食べていたり、ディップして食べたりする人も。

正しい食べ方が分からないので、地元の人の食べ方をまねしてみることに。味のなさそうなせんべいを手で割って口にしてみるとパリッとした軽い食感とともに素朴な風味が広がります。気づくと、3枚ほどお皿にのっていたせんべい全てがなくなっていました。

焼いたものや揚げたもの、サイズもお店によって違っているけれど、どれも軽い食感と独特の風味があり手が止まらない味。

そのまま食べるのはもちろん、地元の人にならってカレーに混ぜ込んで食べてみるとカレーの水分でしんなりとした部分と、パリパリの部分が絶妙なバランス。食感を飽きずにたのしむことができます。

最初のうちは貴重な数枚をちびちびとありがたく食べていた私ですが、地元の人が店員に追加でもらっているのを見て、私も身振り手振りで追加してみることに。

そこではじめてこのせんべいのようなこの食べ物が「パパド」という名前だということを知り、次からはカレーが運ばれてきた段階で追加パパドを頼むようになったのです。

インド人おすすめの「パパド」の食べ方

「パパドを気に入ったのか?」という店員に「イエス!」と満面の笑顔で答えていると、なにやら隣りの席にいたインド人のお客さんが店員に話し始めました。すると店員がふたたび「パパドが好きか?」と聞いてきたのです。

「もちろん」と答えたところ1枚のお皿がテーブルに運ばれてきました。それは、いつも食べているパパドの上に細かく刻まれた野菜がのったもの。

注文した覚えのない料理に戸惑っていると、隣りの席に座っていたインド人のおじさんが「パパドが好きならそれも食べてみるといいよ」と笑顔で話しかけてきてくれました。

なんと、そのおじさんは、追加でパパドを注文する日本人がおもしろがって、おすすめのパパド料理を注文してくれたのです。

みずみずしい野菜とスパイス、

香ばしさが一体となったパパド

パパドの上にのっているのは、彩りよく刻まれたみずみずしいトマトにきゅうり、玉ねぎなど。一口サイズに割って口に入れると、クミンと黒こしょうといったスパイスだけでなく、酸味も効いていてさっぱりとした口当たりです。

香ばしいパパドとスパイスの効いた野菜。思わずビールがほしくなる味だけど、残念なことにインドのローカルなお店には宗教上の理由からビールが置いてあることはほとんどありません。

「おいしい!」と口をいっぱいにする私におじさんは「このパパドなら野菜も食べられるし、さっぱりしているからいくらでも食べれるだろ? もっと食べるといい」と満足げにうなずいています。

インド人がパパドを買う場所

そのインド人のおじさんは、「簡単に作れるから日本でも作ってみるといい」と教えてくれました。

「パパドはインドでしか食べれないのでは?」と私が驚いていると、昔は家庭ごとにオリジナルのレシピで粉やスパイスを混ぜ、一枚いちまい天日干しをして作っていたんだそう。

しかしいまは、スーパーや小さな商店などで市販のパパドを買う家がほとんど。だからお店に行けば市販のパパドを買うことができると言うのです。

「直火で炙ったパパドが一番うまいんだよ」とおじさんの好きな焼き方まで教えてくれました。

※パパドのレシピはこちら

無限にビールがすすんでしまう味

そうして、インドで大量のパパドを買い込み、ビールといっしょに食べることを夢見て帰国することになった私。

たびたび友人を呼んではパパドをコンロの直火で炙り、思う存分ビールとともにお腹を満たす日々を送りました。当然ながら一気に体重は5キロの増加……。

実は、インドでは太っていることが裕福であり良いこと、美しいことであるという価値観がまだ残っています。

いま思えば「そんなにパパドを食べると太っちゃうよ」と笑っていたおじさんの言葉は、「もっとパパドを食べ、太って美しくなりなさい」という意味だったのかもしれない――。

そんなことを思いながら、今日もパパドとビールがついついすすんでしまうのです。

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