メキシコでハマった! 完熟マンゴーにたっぷりかかったチリとライムの味

メキシコグルメの基本は「chile con limón!(チリとライム)」。

メキシコには100種以上のチリ(唐辛子)があるといわれ、とにかく食べるものには何にでもチリとライムをかけるのがメキシコスタイルのようです。日本人にとってのしょうゆのような感覚でしょうか?

でも、メキシコのチリ文化はおそらく日本のしょうゆ以上。普通の料理だけでなく、甘いジュースやデザートにまでチリとライムをかけるのですから驚きです。

今回は、日本人にとっては未知の食文化といっても過言ではない、メキシコグルメをお届けします。

初めて訪れたラテンアメリカの地で「チリとライムの洗礼」にあずかる

今年の3月、私はメキシコの首都・メキシコシティにいました。

バックパッカーの端くれとしてアジアを中心に貧乏旅行を重ねてきた私ですが、世界地図の右側(アメリカ大陸)に足を踏み入れるのはこれが初めて。

「今回の旅は中米」という漠然とした予定こそありましたが、最初の地をメキシコにしたのは以前から特に魅力を感じていたから……というわけでは全くなく、単に日本からの飛行機代が他の国より安かったからです。

強い思い入れもなく、メキシコの食文化といってもタコスくらいしか知りませんでした。そして予想としては全体的に辛い印象……。

予想は的中しました。

冒頭に書いたように、メキシコの食文化にはチリとライムがかかせません。ほとんどの料理の工程には、たいていチリがたっぷり入り、つくる途中で入れない場合は卓上で仕上げにかけます。

なので、食卓には必ずチリソースかチリパウダーと半切りライムの皿がスタンバイ。どんな料理にもこれでもかとチリをかけ、ライムを搾ります。

でも私はどちらかといえば辛いものが苦手。食べられないというわけではありませんが、日本にいても、唐辛子もタバスコも自分から好んで使うことはあまりありません。にもかかわらず、メキシコ滞在中はなぜか毎日のチリ攻めに飽きなかったから不思議。所変われば品変わるということでしょうか?

絶品の完熟マンゴーにまさかの……

とはいえ、あまり続くと「辛いものもうおなかいっぱい」という心境に。そんな時の癒やしが、街のあちこちに立ち並ぶ屋台のマンゴーでした。

そう、メキシコの食文化で、タコスやトルティージャにひけをとらないくらいおすすめしたい食べ物はフルーツ。特にマンゴーは、日本でめったに食べられない甘くて完熟したものがこれでもかと盛られても値段は100円ちょっとという安さです。

外国で生野菜やフルーツを食べることにいつも少し抵抗がある、お腹の弱い私。でも、メキシコは3月にもかかわらず、もう夏の暑さ。

日焼けしたくないという切実な乙女心で長袖を死守したまま一日中街を歩いていた私は、喉がかわいていたこともあり、ついに勇気を出して屋台マンゴーにチャレンジしました。

そして、そのおいしさにびっくり。

「たとえお腹を下したとしてもこれを食べない手はない!」というわけで翌日も同じ店に再来訪しました。

メキシコシティでは、「Buenavista」という駅から隣にある大型スーパー「Wal mart」に向かう間くらいにあるマンゴー屋台が一番甘くておいしいとの評判です。

迎えてくれたマンゴー売りのセニョールは、二日連続の来訪になにやら話しかけてくれるのですが、スペイン語が堪能でない私は残念ながら理解できず。とりあえず満面の笑みで「Si!(はい)」と返します。

すると……

山盛りになった完熟マンゴーの上に、大量のチリパウダーがかけられてしまいました!

さらにその上から、だめ押しのように違う赤いソースがもう1つダブルでロックオン! 状況についていけない私は呆然と見ているしかありません。こちらの焦りぶりにも気づかず、仕上げにたっぷりとライムを絞って完成!

「やっちまった〜!」と後悔しても既に遅し。恐る恐る口に運んだ私でした。

……が、なんとこれがまさかの激ウマ! チリパウダーにはしおも入っているらしく、スイカにしおの感覚でしょうか? ほどよい塩味とチリの刺激、それにライムの清涼感が脱水症状気味の五臓六腑に染み渡ります。

よく考えれば唐辛子もスパイスの仲間。スイーツに使っても不思議はないのかもしれません。そして二つ目にかけられた赤いソースは意外にもそれほど辛くなく、なんだか梅干しのような味がして望郷の念すら感じさせます。

結局私は、日本に帰るまで毎日のように通い、最後には「Mucho Chile!(もっとチリをかけて!)」とチリのマシマシを注文するほどチリマンゴーの味にすっかりハマったのでした。

暑い昼のポカリスエット代わりにはもちろん、夕方に景色を見ながら食べてもまた最高です。

メキシコの万能調味料「Tajín」

そんなわけで、メキシコグルメの洗礼を浴びた私。

すっかりチリマンゴーのとりこになった私は、本場のチリパウダーを買って帰ろうと心に決めました。チリパウダーは日本でも売っていますが、日本では少しも唐辛子(チリ)の味に魅かれなかった私。メキシコのチリパウダーには何か秘密があるに違いないのです。

そしてその上からかけた赤いソース。いかにも辛そうな色の割にはそれほど辛くなくて(でも少し辛い)、なぜか梅干しの味のする、あのソースの正体をつきとめ、なんとしても入手したいと思いました。

いったいどれがマンゴーに合うチリなのかわからないままウロチョロする日々が続きました。そんな中、あちこちでチリマンゴーの食べ比べをしながら、ついに気づきました。

マンゴーを売る店は、かなりの割合で同じメーカーのチリパウダーを使っているのです。

私は「旅の指さし会話」を手に片言のスペイン語でアミーゴを追求しました。

「……Que es esto? (これは何ですか?)」

「Esto es Tajín!!(タヒンだよ!!)」

「……Que es esto? (タヒンとは何ですか?)」

「Esto es Chile!!(チリだよ!!)」

そう、これがメキシコ人の秘密道具で、タヒン社が出している「Tajín(タヒン)」です。

3種類の天然チリと乾燥ライムジュース、しおが絶妙にブレンドされていて、これを使えば簡単にメキシコ屋台の味が再現できます。

メキシコ人は、このタヒンが大好き。フルーツ以外にも、肉料理の下味に使ったり、サラダのドレッシングに使ったり、果てはアイスやジュースにかけたりと、とにかく「とりあえずタヒン」なんだそうです。

日本でもAmazonなどで購入できますが、もしタヒンが手に入らない場合はチリペッパーと塩でも代用可能。ただ、日本で売られている一般的な「チリパウダー」は、たいてい唐辛子に何種類かのスパイスやハーブがブレンドされています。クミンやオレガノ、ガーリックな余計なスパイスが調合されたチリパウダーは、フルーツにかける場合は避けたほうがいい気がします。

日本で買うなら成分が唐辛子だけの「チリペッパー」に、しおやライムをプラスして使うのがおすすめです。

そして、ダブルでかけられた梅干し風味の赤いソースについても店で聞いてみると、

「Chamoy(チャモイ)」という名のソースであることがわかりました。

チャモイという杏の実をベースに、チリや塩、砂糖、酢を混ぜたものだそうです。チリがメインではないため辛さも控えめ。でも杏と梅は仲間ですから梅干しっぽい味がするのも納得です。

メキシコ人はこのチャモイソースも大好き! タヒンと同じようにさまざまな料理の風味付けに使います。日本でも買えますが、味的には、梅ジャムでも代用できそうな気がします。

旅の食事は安くておいしい屋台メシがマスト!

よく「発展途上国の屋台は不衛生」なんて情報を耳にしますが、勇気を出して屋台メシを楽しんでください。なんといっても屋台メシは安くておいしい! そして店の人はみんな、やさしくてフレンドリーです。

いつもやさしかったメキシコのアミーゴたち。日本へ帰る日にはとても寂しがってくれました。

最後の言葉は「Adios(さよなら)」ではなく「Nos vemos(また会おう)」で別れた私たち。

メキシコを訪れたばかりの頃は「No Chile!(チリはかけないで!)」を連呼していた私。チリマンゴーはもちろん、メキシコという国が大好きになった旅でした。

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