「キクイモ」を埼玉県久喜市のブランド「久喜イモ」に。障がい者が働きやすい農業を目指して

秋が訪れる直前の9月上旬。JR・東武伊勢崎線久喜駅から、車で30分ほど移動した田畑の広がる場所に、黄色い花が咲き誇っている一角がありました。この黄色い花が「キクイモ」の花だと教えてくれたのは、合同会社もえファームの代表を務める、相馬佐穂さん。キクイモの名前の由来が分かる、黄色い菊のような花を横目に、「キクイモの収穫期はこれからで、今は花畑になっています」と話します。

相馬さんは、このキクイモを久喜のブランドイモにしようと、「キクイモを久喜イモにしよう会」の活動を行っています。その活動の裏には、さまざまな想いがありました。

キクイモ栽培のきっかけは「大切な娘の存在」だった

相馬さんは農業をはじめて、まだ3年ほど。農業に携わるきっかけになったのは、知的障がいのある、娘さんの存在でした。まもなく成人を迎える娘さんが、これから自身で生きていくにはどうしたらいいのだろう――。母として考えたときに「障がい者支援施設で作業をしても、月1万円程度の手当しかもらえず、生活するにはほど遠い額であることが気がかりだった」と振り返ります。

キクイモは、消化によってオリゴ糖に変わる「イヌリン」が豊富で、健康食品として注目をされている食材です。さらには栽培がしやすいので、障がいのある人でも、農作業がしやすい作物であることに目を付けた相馬さんは、早速市内の圃場を借り種芋を植えました。

わずか1年目で、たくさんのキクイモを収穫できた相馬さんは、2017年12月に「キクイモを久喜イモにしよう会」を作り、イベントとして参加した人たちと、さまざまなレシピや加工品を考え、久喜市内外の飲食店や、食品加工会社に提案しています。

キクイモの収穫期は、11月~3月頃まで。繁殖力が強く背丈が3メートルにもなるのだとか。この日、少し掘り出してくださったイモは、収穫にはまだまだ早いため、小さくかわいらしいイモでした。

「先日の台風(取材日は台風15号上陸後でした)の影響で、だいぶ茎が倒れてしまったので心配でしたが、イモが元気でいることが確認できて良かったです。自然相手の農業は、大変ですが、そこが魅力ですね」と、相馬さんは話します。

「生産者だから気づけるおいしさ」を提案したい

相馬さんが「合同会社もえファーム」を設立したのは、キクイモ収穫期後半でもある2018年2月。ここから、本格的に農業をビジネスにし、障がいのある人たちの雇用先として機能させるための、チャレンジが始まりました。

まずは、原点となるキクイモの栽培からスタートした相馬さんは、栽培規模の拡大として久喜市内とその周辺に全3カ所の圃場を確保しました。2カ所は、現在キクイモ栽培されており、1カ所はその他の野菜を栽培しています。

相馬さんがこだわっているのは「自然農法」。相馬さんの畑には雑草が顔を出していました。

「雑草も生えてくるのには意味があって、土へのサイクルを作ってくれているんですよね。なので作物に大きな影響を与えるものには手を加えますが、作物に影響がなく土を作ってくれているものは、そのままにしています。畑を見に来る人にはよく、『手抜きしている』と突っ込まれますけどね……」と、苦笑いする相馬さん。収穫期を過ぎてしまった作物も、あえて一部をそのままにしておくそうです。

「作物の一生をよく観察し、一般的な出荷時とはちがう、料理を引き立てるおいしさに気づいたりします。そういった『生産者だから気づけるおいしさ』を提案し、提供することで、喜ばれているものもあるんですよ!」

相馬さんは、自然な形で育った野菜は市場には卸さず、飲食店との直接取引にこだわっています。「栽培へのこだわりを分かってくれる、お店へ販売することで、こだわって作った野菜をおいしくしてくれる」

その気持ちが伝わるっているのでしょうか。今ではリピートしてくれるお店が増えているのだそうです。

「合同会社もえファーム」を支える人たち

相馬さんが代表を務める「合同会社もえファーム」は、久喜市はもちろん、その周辺や県外の方など、たくさんの方に支えられはじめています。

久喜市内のカレー屋さんが、いち早くキクイモをレシピに取り入れてくださり、キクイモ目当ての常連さんがいるほど。また、今のビジネススタイルは、千葉県にある農家さんからヒントをもらいチャレンジしているといいます。さらには、キクイモ栽培者として、キクイモを紹介した本に「もえファーム」が取り上げられるほどまでに。

その中で、設立当初から応援くださっているという、「中華料理 来集軒久下(くげ)店」の卯都木(うつぎ)さんを紹介していただきました。

訪れた日には、期間限定で「空心菜」メニューのポスターが。もちろん、空心菜は、もえファーム産。

私は、空心菜のラーメンをいただきました。シャキシャキした空心菜に、モチモチとした自家製麺、更にお店のある加須市のブランド豚「香り豚」の、甘みがマッチ。一度食べたら、やみつきになる味です。

相馬さんと卯都木さんの出会いは、地域経営者の集まり。相馬さんが、自分の卒業した高校の後輩であることを知った卯都木さんは「それは、応援しなくては!」と、バックアップをしてくれたのです。「野菜を栽培、売ることも大切だけど、相馬さんの本来の目的は『障がい者雇用をすること』のはずだから、本人が前に立って、知ってもらうことが最重要と考えています」と、卯都木さんが語ってくれました。

それを受けて相馬さんは「経営者が集まる懇親会で、卯都木さんからあえて前に出て挨拶をするように勧めてもらったことで、たくさんの方に自分を知ってもらう機会になった」と振り返ります。

そんな卯都木さんは、中華料理に限らず、さまざまな創作レシピを作るのが趣味なのだとか。そのうちの一つ、キクイモのポタージュレシピを相馬さんアレンジで教えてくださいました。ポタージュを作る際に取り除いた皮は、ポテトサラダの材料にもなります。

https://www.mainichigrillbu.com/recipe/873

まるで兄妹のような、会話に笑いが絶えないお二人。その会話は、間もなくシーズンが終わる「空心菜」に継ぐメニューの話に移り、なんとこの取材中に、新メニューが決まったのです!

それも、これから収穫期を迎える、キクイモのあんかけ料理。これから寒くなる時期にピッタリのメニューです。これをきっかけにどんな料理ができあがるのかを思い描きながら、卯都木さんへの取材を終え、お店を後にしました。

「もえファームのキクイモを広めたい」。相馬さんが実現したい今の夢とは

「今の農業は、市場やスーパーに卸すのが主流ですが、それではいかに安く、たくさん出荷するかの効率重視になってしまいます。それは私が本来目的にしている『障がい者に、きちんと給料を支払う事業』からかけ離れてしまう。だから走り始めた今は、自然農法を評価してくれるお店に、きちんとした価格で販売していくことが、今後に繋がると思っています」

そう目的と手段を履き違いないように日々活動をしている相馬さんの直近の夢は、自分が手がける野菜を定期的に購入している兵庫県のレストランへ食事をしに行くこと。

「そのときには、車にたくさんキクイモを積んでいきたいです。もえファームのキクイモをその土地に、もっともっと広めたいな」

娘さんの将来を心配して、はじめた農業。キクイモ畑に、娘さんの姿も見られる日があるそうです。

「水やりのみならず、種まき、草取り、イモ洗い、袋詰めなど、丁寧にやっています。納品に同行したとき彼女の笑顔は、取引先に好評です」

娘さん自身も、たくさんの方とコミュニケーションが取れて、楽しんでいるのだとか。そして母として、娘の成長を実感でき、感動すると共に「頑張ろう」という、自身の活力に繋がっていると言います。

別れ際に、キクイモの花束を渡してくれた相馬さんの表情には、「まだまだこれから!」という強い決意が表れているように感じました。

▼合同会社もえファーム

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Instagram:https://www.instagram.com/moe_farm/

取材にご協力いただいた「中華料理 来集軒久下店」

Facebook:https://www.facebook.com/raisyuukenkuge/

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