自然豊かな伊豆半島の地で新スーパーフード・クレソンを栽培するクレソン農家

都内から車で約3時間、伊豆半島の南端に位置する下田。あのペリー提督率いる黒船来航により開国町として知られる小さな港町です。

今回の取材先は、自然豊かな伊豆半島の地で、新たなブームを引き起こそうと頑張っている野菜農家さんです。その野菜とは……「クレソン」!

そもそも、「クレソン」という名前を聞いてもあまりピンとこない方もいるかと思います。

ですが、取材を通して分かったことは、クレソンは「次世代のスーパーフード」とも言っても大げさではないくらい素晴らしい栄養素と可能性を秘めた野菜ということ。

そんな魅惑の野菜「クレソン」を知るべく、下田でクレソン農家を営む「ひらたけ農園」の平山武三さんにお話を伺ってきました。

都内から車で約3時間強、伊豆半島の南端に位置する下田。

1月上旬頃、ちょうど旬を迎えるクレソンの収穫で忙しくしている「ひらたけ農園」へ行ってきました。

農園の代表である平山武三(通称:たけぞー)さんの第一印象は、 伊豆だけに「サーファーですか!?(笑)」 とツッコみたくなるほど日に焼けた地肌でしたが、そこがまた農家さんの懸命さを表しているかのよう。収穫期の真っ最中でで忙しくしているのも関わらず、白い歯を見せて笑顔でお出迎えしてくれたのが印象的でした。

Uターンで移住で地元で一から農業を始める

クレソン農家「ひらたけ農園」の代表、平山武三さん。現在、農家を営まれている場所と同じ、静岡県下田市出身の46歳です。周りの人がみんな決まって「たけぞー」と呼ぶので、下の名前が「たけぞう」なのかと思いきや、実の名前は「たけみつ」さんだったのは意外でしたが(笑)、みなさん親しみをこめてそう呼んでいるそうです。

もともと20年以上、東京で全く農業とは関係のない仕事をしていたようですが、約4年前に故郷である下田にUターン移住。以来、クレソン農家として働いています。

なぜ、ここで日本ではあまり馴染みのないクレソンを育てることになったのでしょうか。私はその謎を解明するべく、平山さんの核心にせまってみました。

クレソンとの出会いが地元に戻るきっかけに

どうして地元に戻ってきたんですか?という問いに対して、

「東京で働いていた時から、いつかは故郷である下田に戻ってきたいとはおもっていたんです。」と、下田に戻ってくるきっかけを探していた平山さん。

「当時は、かなり漠然として想いで、いつかは下田くらいで。下田はやっぱり自分の生まれ育った場所で親も住んでいるので、都会で忙しく働いていても地元の良さを忘れることはなかったんですよね。ただ、具体的に地元に帰って何をしようかというところまではありませんでした。そんな時に、偶然知ることになったのがクレソン。知り合いの紹介で当時すでにクレソン農家として活動する方ともつながり、クレソンをより知る中で、その魅力に強く惹かれたんですね。『これなら俺にもできるじゃないか』ってね。」

クレソンの農作物としての可能性も感じ、そこで農家になるという大きな決断をしたそうです。

クレソンにとって伊豆は最適な地

おいしいクレソンを育てるにはなによりも水が命。綺麗な水が淀みなく絶えず流れている場所が栽培に最も適しています。農園の畑も山の裾にあり、傾斜を利用することで山の水が自然と下に流れ、作物に綺麗な水が供給されているのです。綺麗な水という点では、ワサビの栽培でも有名な伊豆はクレソンに適していると言えるのかもしれませんね。

ここで、農作物としてのクレソンの特徴も説明いただきました。

「茎をよく見ると、空芯菜のように茎の中心が空洞になっていて、これで水を効率よく吸い上げてるんです。実は、寒すぎたり暑すぎたりする気候にはあまり強くないので、真夏や真冬の時期は心配になりますね。」

とはいえ、基本的に年間通して育つ野菜で、ある一定のところまで茎が伸びたら刈り取って収穫。しばらく経つと切ったところからまた新しい葉が伸びてくる。その繰り返しだそうです。

「種類や天候などの条件などにもよりますが、早いものでは一度収穫してから次の収穫まで3ヶ月ほどで育ってしまうものもあります。

なので、年に何度も収穫できるという点では、お米などのように一年をかけて収穫する作物と比べるとコストパフォーマンスに優れた野菜とも言えるんです。」

私もインタビューの際に摘みたてをその場でかじらせていただきました。青々とした葉は、ピリッとした微量の辛味があり、さっぱりとした味でとても新鮮でした。風にあまり強くない野菜だそうで、風に当たると葉の部分が紫色に変色してしまい、本来よりも辛味が強くなってしまいます。なのでその対策として、畑の上には風避けの膜を被せていました。

風以外になにか育てるにあたって大変なことはありますか?と尋ねると意外な答えが返ってきました。

「実は、風よりも厄介な問題があるんです。畑を見渡していただければお分かりになると思いますが、野生の鹿が食べに来てしまうんです。周りの囲いはその対策なんですが、正直効果がないんですよ。」

次世代のスーパーフード!?

クレソンの魅力は、なんといってもその高い栄養素にあります。強い抗酸化作用を持つカロテンが豊富に含まれ、摂取することで体内の血をきれいにすることで動脈硬化などの生活習慣病を予防する働きがあるそうです。あるアメリカの※研究機関によると、慢性疾患(生活習慣病)を予防するのに最も効果のある野菜であるという結果も出ています。

これほど可能性を持っている野菜なのに、日本でクレソンといえば、どちらかというとメイン料理の飾りや香り付けとして使われることが多かったようですが、メイン食材としても十分活用することができます。また、油との相性が非常に良いのでお肉料理にぴったりの食材だそうです。

※出典:https://www.cdc.gov/pcd/issues/2014/13_0390.htm

ゆくゆくは伊豆の特産品に

クレソン農家として歩み出して今年で4年目。日本では、まだまだマイナーな野菜で、全国でも生産者の数も少なく、育て方なども含めて情報が少ないのが現状だそうです。平山さんも同業者からアドバイスを聞きながら毎日が試行錯誤の連続。ただ、前例があまりない分、仕事へのやりがいも強く感じていると言います。

「現在の仕事はいかがですか?」という私の問いに対して、

「今、仕事が楽しくて仕方がないんです。」そう即答してくれました。

続けて、「ひらたけ農園は、初年度と比べるとノウハウも貯まりつつあり、生産量も確実に増えています。最近では、徐々に卸先も増えてきて、日本全国の料亭やレストランに卸すようになってきています。今後はより収穫量を増やして、より多くの人々や地域に自分が育てたクレソンが届けられるようにしたいです。」

農園が大きくなれば、働きがいのある雇用先としても地元民や移住者などに雇用を提供することも可能になり、結果的に地域の活性化にもつなげていけたらとも思っています」

こんがり焼けた肌と満面の笑みで語ってくれた平山さん。

具体的な将来についてのビジョンを持つなど、その際に見せてくれたから本当に仕事を楽しんでいるようでした。

最後に、「伊豆と言えば、『クレソン』そう言ってくれるように今後も頑張っていきたい!」と力強く語ってくれたのがまた印象深かったです。

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