「食と農業にもっと興味を」。北海道北村地区から発信する農家のお母さん奮闘記

平成の市町村合併によって、2006年に北海道岩見沢市へ統合された旧空知郡北村。2020年に廃線予定の札沼線・北海道医療大学以北の区間にある石狩月形駅から程近い北村豊正地区に、「北の大地マルシェ」という施設があります。

そこは、農産物の直売所と加工場、カフェに加え、地域のハンドメイド作家や福祉施設の利用者が作った雑貨が並べられた「憩いの場」。連日地元の人々を中心に賑わっているこちらの施設を運営する一人が、今回お話を伺った小西泰子さんです。

農家の娘から農家のお母さんへ

小西さんが暮らす北村は、大正時代に開拓が進んだ比較的新しい農村地区。現在は農業が主な産業となっていますが、開拓当初は綿羊の飼育で栄え、北海道の名物でもあるジンギスカンをはじめとした羊料理の発祥の地ともいわれています。

小西さんのご両親は内地から北村へ移住してきた開拓民。現在の家庭と同じく、実家もカボチャや、とうきび(トウモロコシ)などを育てる農業を営んでいました。子どもの頃は畑で遊び、農業に携わる大人たちの姿を見ながら手伝いもしていたという小西さん。隣の月形町の高校を卒業した後は「農家の娘」として両親と一緒に働き、お嫁に行った先でもまた農業に携わり「農家のお母さん」となりました。

現在は、異業種の仕事と兼業で働くご主人、同じく農業に携わっている息子さんと一緒に暮らしています。

農業を通じて広がる交流の輪

現在は地域の人々が集まる憩いの場となっている「北の大地マルシェ」。しかしその原点は、意外なことに無人の農産物直売所がきっかけとなっています。

始まりは1989年頃。いびつな形や、既定のサイズから外れてしまったなどの野菜や果物を道路の脇に並べて売っていました。そこから有志や協力者が集まってどんどん規模が大きくなり、1999年には農産物を加工する設備が整い、体験などのイベントを催すようになったといいます。

もともと自分でイベントなどを考案することが好きな小西さんは、次々と新しい企画を考え、現在では企業向けの研修会や、旅行会社とタッグを組んでツアーでの農業や加工の体験企画も打ち出しています。

「もとはね、集客のために(イベントの企画を)始めたの。だって、買い物をするためにだけに、わざわざ人は(ここへ)来ないでしょ」と話す小西さん。マルシェに足を運んでもらうきっかけになればと始めたイベントは回数を重ねるごとに参加者が増え、近隣の市町村からはもちろん、北海道内の遠方地域や本州からも参加の希望があることも。

そして、イベントを通じて人と人との輪が広がり、現在では、イベントの運営や講演の依頼など、いろいろな方面から声を掛けてもらえるようになりました。

「学び」を求め、「学び」を授ける

長年携わってきた農業に関することはもちろん、食に関することや観光事業、国際交流にも関わってきた小西さん。農業従事者としての経験から得た知識や旺盛な好奇心によって深く掘り下げた雑学まで、おもしろいと思ったことは積極的に人へ伝えていきました。

最近では、地域の学校の授業参観の日に話をしに行き、子どもたちを介して家庭の中で食への興味を促す「食育」の活動も行っています。しかし、人前で話すときは綿密に計画を立てるのに、話したいことがたくさんあって制限時間内に収まりきらないこともしばしばあるのだとか。ある時は、外国人が参加するイベントに協賛して農業体験をしてもらい、お互いの国の農業について話し合うなど異国との交流も図っています。

また小西さんは、積極的にSNSを駆使して情報発信も行っています。自身のアカウントで頻繁に活動の様子や記録を投稿。イベントなどで関わった人たちと繋がり交流や情報共有をすることで活動に対する賛同者が増え、どんどん活動の幅が広がっているのだとか。

そして、同じ活動をしている仲間たちで「北の大地マルシェ」の専用ページも作成し、既存の賛同者や仲間だけでなく、まだ交流のない多くの人へも自身たちの活動やイベントの様子を写真と文章で発信しています。

地元食材を活用してもらえるように

岩見沢市では、北海道内ではめずらしく落花生の栽培を行っています。「北の大地マルシェ」のある北村豊正地区の「農家の母」有志が集まり積極的に行われている地元農産物のPR活動。その一環として、地域の人々や来賓を招いた交流会で地元食材を使った料理の試食会を行ったり、試行錯誤を重ねて考案したレシピを本にして発行したりといった活動を行っています。

今回は、どこの家庭でも手軽に作れる茹で落花生を使った「落花生ご飯」のレシピ(https://www.mainichigrillbu.com/recipe/836)を教えていただきました。メインとなる落花生は生のものを使うのですが、茹で加減を少し変えれば、スーパーマーケットで売られている乾燥落花生でもおいしく作ることができます。

また、マルシェの売店では、岩見沢産落花生を使ったジェノベーゼソースなどの加工品の他に、隣の美唄市周辺で作られているハスカップやワイン用品種のぶどうを使ったジュースや調味料も販売しています。時折開催されている、老若男女の垣根を越えたさまざまな人々が集まる料理講習会。この講習会の中では、マルシェで売られている加工品のおいしい使い方や、食材についての豆知識を生産者から直接得ることができます。

農業は「人の生活の原点」

小西さんにとって、農業とは「自給自足で生活できる、人生の源」だといいます。普段何気なく口にしている食べ物の多くは「農業」という産業抜きでは成り立たない、まさに人の生活の原点となるもの。その考えは、幼い頃から農業に携わる大人たちの姿を見ながら過ごし、自らもずっと農業に携わってきたからこそ強く感じるのだと思います。

村の農産物直売所から始まった「北の大地マルシェ」ですが、来年からは農産物加工場としての運営がメインとなります。今後は、旅行会社のツアー客へ向けた新事業や農業体験の分野をさらに広げていきたいと、小西さんは語っていました。

少しでも、食や農業に興味を持ってくれる人が増えて欲しい―—。その一心で活動を続けてその幅を広げてきた、小西さんをはじめとした北村豊正地区の方々。ローカルな地域だからこその魅力がたっぷり詰まった「農イベント」に、参加してみてはいかがでしょうか?

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