見て、作って、本場のものを味わう。モロッコの料理教室で教わった「タジン鍋料理」

みなさんはこの形の鍋を見たことがありますか?

このとんがり帽子のような鍋は、ご存知の通り日本でも一時期ブームになったタジン鍋です。タジンはアラビア語で「鍋」のこと。今ではすっかり料理名として知られていますね。食材に含まれる水分を利用して蒸し焼きにするスタイルの北アフリカの料理です。

日本人と海外の人100人が一緒に住むマンモスシェアハウスで暮らしていた私は、モロッコから来た子と知り合いました。その子と一緒にモロッコのレストランに行って食べたタジンがおいしくて忘れられず、もっと知りたくて、ついには自分で作って来ようと思い立つまでに。そうして、アフリカ大陸・モロッコに足を運び、本場のタジン鍋料理を味わうことになったのです。

いざ砂漠の国へ

モロッコといえば、サハラ砂漠が有名です。タジン鍋を味わうだけではなく、せっかくだからとその壮大な景色を拝みにラクダに乗ってサハラ砂漠でキャンプするツアーに参加することにしました。

砂漠では水が非常に貴重です。水は事前に数リットル購入し、ラクダに積んでいきました。日中の気温は日陰で25度、日なたでは40度以上にもなります。昼間は日差しも強く、喉も乾くし汗で体から水分が出ていくけど、全部飲んだら水が手に入る所がない……。常に水のことを考えていたのを覚えています。

タジン鍋は、そんな過酷な環境でも水を少量しか使わずにおいしく食べられるよう工夫された料理だといいます。

地元の人に教わるモロッコ料理教室

旅に出た時は必ず各国の料理教室に行くことにしている私は、砂漠から戻った翌日すぐに料理教室を探し、申し込みました。

昔、お店をやっていたこともあるマラケシュ出身の女性と待ち合わせ、市場に出かけました。本日作るのは、タジン鍋の中でも定番で人気のある「レモンチキンとオリーブのタジン」です。

買い物をしていく中で衝撃を受けたのが、鶏肉屋さん。東南アジアにいた時は、鶏が豪快にさばかれて並べてあったり、水牛や豚の内臓が並べてあったりしたのを見ていたので、慣れていたつもりでした。

しかし、ここでは注文が入ったら、目の前で生きた鶏の首を切り落とし、羽をむしる機械に入れて新鮮な状態で手に入れることができます。日本ではそういう光景を見ることは少ないので、「命をいただいてる。感謝して食べよう」という気持ちを再度思い出させてくれた瞬間でした。

さて、レモンチキンタジンのレモンに欠かせないのはこれ。レモンの塩漬けで「Aicha(アイシャ)」と言います。日本のもの比べると酸味が少なく、香りが強いのでモロッコ料理をより美味しくしてくれる調味料です。日本で作る場合は、国産レモンを縦十字に切り込みを入れて、レモンの総重量の10%の塩をもみ込み、瓶詰めして暗所に置いておけば1カ月程でできあがります。

「今日は行きつけのホームレスの男から買った」と言っていたのが気になりましたが……、材料はこれで無事そろいました。

天井吹き抜けのオシャレなモロッコの家で料理タイム!

モロッコの街には「メディナ」というクネクネした迷路のような細道が広がっています。これは外敵からの侵入を防ぐための外壁と、進入されても容易に目的地まで辿りつけないように迷路のように作られた狭い道のことです。

外からは全部同じ壁のように見えますが、一歩中に入るとこんなにオシャレ。小鳥が空からやってきたりします。内装に凝っている人が多いと聞きました。雨も滅多に降らないので、屋根が無く壁は石なのでひんやりしています。泥棒は屋根から入って来ないのか聞いたら、「多分、大丈夫」だそうです。

歩き疲れたので、甘いミントティーを入れてもらって、一息ついてから材料を用意します。オシャレなテーブルなので何を置いてもオシャレに見えます。

今日のタジン鍋は、直径18cm程ある大きな鍋。8人で3つ分作ることになりました。

家庭用は最初の写真のように、カラフルなものではなく茶色のシンプルなタジンが多いようです。

材料をカットし、鍋にどんどん入れていきます。タジンの蓋は、使わない時はスペースを取らないように、傘のように上から重ねていくそうです。調理も切って、かけて、混ぜるだけで、思っていたよりも簡単でした。

全て材料を入れたら、蓋をして1時間程ゆっくりガスで火を通します。とんがりの上の部分が狭いのは、熱の対流を下方に集めて食材に火が通るようにするためです。水を少ししか使わないので、野菜のビタミンやミネラルも逃げ出さず食べられること、ゆっくり時間をかけて加熱するので、鶏肉も柔らかくなるそうです。たまに味を馴染ませるためにかき混ぜるので、置く場所が無いからスプーンは写真の位置がベストらしいです。

できあがりを待っている間に、テーブルの準備をします。実はこのタジンの入れ物にはたくさん種類があって、塩・胡椒などの調味料入れに使われていたり、パンが乾かないようにする蓋になったり、小物入れもあったり……。市場では色んなサイズのタジンの入れ物が売られていました。

デザインも可愛いので、どうにか日本まで持って帰れないかしばらく悩みましたが、割れてしまいそうので、日本で買うことにしました。

1時間後、待ちに待ったレモンチキンタジンの完成! 余ったオリーブやレモンの皮を散らし、いただきます! フォークとスプーンを用意してありますが、パンをちぎってスプーン代わりに食べるのがおいしい食べ方です!

鶏肉の下に残るオリーブオイルも味が染みていてパンに付けて全部ペロリと終わってしまいました。日本から20時間かけて来たかいがありました。

人々が暮らす土地の気候や理にかなった料理

日本はインフラ整備が進んでいて気候に恵まれているため、どこでも安全に水道水が飲めて、全国各地で適度に雨も降るので、野菜も魚もおいしく食べられます。

日本で一時的にブームになったのは、野菜がたくさん食べられて健康的、簡単な調理法から人気が出たかもしれません。しかし、モロッコでは家も食べ物も、強い日差しや砂嵐に耐えられるような工夫から生まれたもの。タジンは、そんな暮らしの中から生まれ、長い間愛されてきた料理だったのです。

最近はIH用のタジン鍋も出ています。ぜひ「レモンチキンタジン」を作ってみてください!

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