2019.11.12UP
「農家」を誰もがあこがれる職業に。 石川県で「西洋野菜」を作りつづける理由
「弁当忘れても、傘忘れるな」
こんなことわざがあるくらい、石川県は曇りや雨の日が多い県です。
そんな石川県も、4月上旬、全国的な暖冬の流れと共に、例年より1週間早い桜の開花を迎えていました。
今回ご紹介する農家さんは、そんな石川県の能登半島中部の中能登町という場所で無農薬、無化学肥料で西洋野菜を育てる「あんがとう農園」の明星さん。主にレストランを中心に野菜を卸しています。
そのため、農園の畑ですくすくと育つ野菜は、スーパーではなかなか目にしないような野菜が並んでいました。
エディブルフラワー、マイクロリーフ、ビーツ、カラフル人参、ポワロ、ルタバカ、スープセロリ、スイスチャード、カーボロネーロ……。
聞きなじみのないような野菜もあれば、「どうやって料理するんですか?」と一つずつ聞きたくなる野菜ばかり。明星さんが、一見どんな風に食べたらいいか分からない西洋野菜を育てるのには、理由がありました。
「最高の野菜を作って、農家として食べていきたい」
20代はいろいろ挑戦し、30代はしっかり働き、40代は楽しむ――。
そう考えていた明星さんは、20代の頃、エンジニアやダイニングバーの店長など、さまざまな仕事に挑戦したり、海外を旅したりしていたそうです。
そうする中で、農業と田舎の大切さ、そして可能性に気づき、一生の生業として農家になる道を決めました。明星さんが生まれた、中能登町は田園風景が続くまさに“田舎”。しかし、明星さんは自分が生まれ育ったこの町を、「ただの田舎ではなく、誇らしい田舎にしたい」といいます。
農家になると決めてから、1年間、地元で有名な米農家さんで農業の基礎を学ぶと同時に、自分の農家としての方向性を考えた結果、米は向いていないと気づきました。そうして、さまざまな種類の野菜を育てる農家になることを選んだそうです。
「最高の野菜を作りたい」と調べていくうちに、いきついたのは「自然栽培」。しかし、田舎で農家になるということは、そう容易い道ではありません。昔からいる農家さんが競合にいるのに加え、田舎だと誰もが自宅の畑で野菜を育てていることが多いもの。いくら「無農薬・無化学肥料、体に良い、環境に良い」と唄っても、野菜の需要が低いという状況がありました。
そこで、明星さんはある決断をします。
「家庭用の野菜ではなく、フレンチやイタリアンのレストランで必要とされる“西洋野菜”を専門に育てよう」
他の農家さんとの差別化をはかることに。現在は畑の状態や野菜の種類によって、有機肥料を使うこともあり、日々最高の野菜を作るために奔走しています。
1年ごとに移り変わる、畑、そして食卓事情
しかし、始めてから数年間は格闘の時期を過ごしたんだそう。
「農家はまず、野菜が作れないとダメでしょう? だから、売り先を確保するよりも畑に専念したんです。3年後くらいから、少しずつ地元の農家さんと会ったり、イベントにも出るようになったけれど、それでも5年くらいは畑にこもってたからね。全然楽しくなかったよ。最近になって、やっと楽しもうって思えるようになったね」
7年目の今は、話題のレストランからも連絡がくるようになり、お店ごとの需要に合わせて品種を選んだり、時期を選んだりして、野菜を育てています。そのため、毎年少しずつ、畑事情、食卓事情も変わっていくんだそう。
最近は、「エディブルフラワー」や「野菜の花」の注文が増え、農園のハウスの中には色とりどりのお花が栽培されていました。「え? これも食べられるんですか?」と驚くと、「園芸用の花は何が使われているか分からないから食べられないけれど、うちは種から無農薬で育てているから、何でも食べられる」と言って、きれいなお花のおむすびを作ってくれました。
花の蜜の味がほのかに香り、シャキシャキとした食感。レストランでサラダやカルパッチョ、ドリンクやケーキに飾られているエディブルフラワーを目にする機会は多くなりましたが、家庭料理で花を飾る習慣はまだまだ根づいてはいません。
それでも、こんなにかわいらしい花を楽しめるなんて。花の種を植えて、真似したくなりました。
おすすめレシピ「ポワロと人参のポタージュ」
西洋野菜を毎日食し、フレンチのシェフとも交流のある明星さんがオススメする料理「ポワロと人参のポタージュ」を教えてもらいました。
使うのは、冬から春にかけておすすめという「ポワロ」(日本名:西洋ねぎ)。見ためはねぎ、味は玉ねぎに似ているポワロは、煮こみ料理やスープによく使われるといいます。
レストランでは、白い部分しか使わず、緑の部分はブイヨンを取るだけの場合も多いようですが、明星さんはしっかりしたポワロの香りをそのまま楽しむために、全部使って作っているんだそう。
ポワロだけのポタージュもおいしいですが、他の野菜と合わせると、その野菜のコクを増してくれます。ポワロはどんな野菜とも相性がいい野菜なんだとか。今回人参と合わせましたが、人参の甘さだけでなく風味が引き立つ、奥深い味わいになりました。
作るポイントは、「水でとろみ加減を調整する」こと。牛乳や豆乳を足すときとはちがった、野菜のぜいたくな味わいが体中に広がります。また、野菜の水分を十分に活かすために、初めから水をたっぷり入れないことも大切なポイントです。
ポワロはねぎに比べて甘みが強いため、玉ねぎを使ったような洋風の味に。ポワロがないときは玉ねぎでも根深ねぎでも代用ができるので、ぜひ試してみてください。
「農家」はかっこいい職業なんです
取材中、明星さんが何度も口にしていた言葉があります。
「ね、農家ってすごいでしょ? やっぱり農家が稼げないとね」
農家 をかっこいい職業、誰もが憧れる職業にしたい――。そう明星さんは言います。
今は西洋野菜を中心に栽培していますが、本心は西洋野菜だけではなく、地域の伝統野菜を使った伝統食の発信、発展にも力を入れていきたいようで す。
西洋野菜と伝統食どちらも手がけ、かつ農家を憧れの職業にするために、どうしかけていくのか。明星さんの今後の活躍に期待です。