2020.1.31UP
和のハーブ「大和トウキ」を食卓に!奈良県宇陀市 の薬草農家が伝えたいトウキの魅力
こんにちは。奈良県在住の旅人料理編集部ライター前田です。実は、奈良県は
薬草の産地で、「漢方のメッカ」と呼ばれていることを知っていますか?
薬草文化発祥の地として古来より採集が行われており、その歴史は推古天皇の
飛鳥時代にさかのぼります。私は土地に根付いた豊かな薬草文化を学ぶために
移住し、宇陀市薬草協議会のみなさんとともに、薬草講座のコーディネートな
どの活動もしています。今回は、全国でも珍しい薬草農家さんのご紹介をした
いと思います。
薬草文化の町、宇陀
奈良県出身の製薬メーカー創設者は数多く、武田薬品、ツムラ、ロート製薬、
アステラス製薬(旧藤沢薬品工業)などが知られています。胃腸薬で有名な「
陀羅尼助(だらにすけ)」も奈良生まれで、トウキ、シャクヤク、キハダ、オ
ウレン、サイコという植物が主に栽培されています。
特に奈良県東の500mほどの高原に位置し、大和高原と呼ばれるほど自然豊か
な田園風景が広がっている宇陀市は、推古天皇が薬狩をしていたという「あき
の」と呼ばれる地であり、古来から薬草がよく育つ土地だったそうです。日本
最古の薬草園「森野旧薬園」も300年にわたり現存しています。
お訪ねしたのは、宇陀市にあるトウキの生産者グループ、「ときわクラブ」の
代表で、宇陀市薬草協議会の会長でもある萬世(ばんせ)晴康さん。5人のメ
ンバーと一緒に約30アールの大和トウキを栽培されています。トウキの白い花
がまばらに咲いていました。
もともと小学校の校長先生をされていた萬世さん。退職後、宇陀市役所がセリ
科の植物で、パクチーのような独特の香りがする「トウキ」の苗を配布してい
ることを知り、耕作放棄地を有効活用するため、100本の苗を受け取りました
。
1年目は生育不良株が多く出て全滅してしまいましたが、2年目以降、その原
因を追求しながら少しずつ栽培面積を増やし、今では仲間と共に育苗も手掛け
て約12,000本を定植。すっかりトウキにはまってしまったようです。
2017年に薬用作物の生産者グループ「ときわクラブ」を結成し、現在は5名の
農家が共同で出荷しています。草取りなどの日常の手入れは当番制で分担し、
出荷作業はメンバー全員で行います。今年から萬世さんは、市内全体の生産者
をとりまとめる宇陀市薬草協議会の会長にも就任されました。
「多くの人にトウキの魅力を知ってもらいたい」と、道の駅でレシピを配布す
るなど、トウキのおいしい食べ方を発信されています。
婦人病の万能薬「トウキ」を広めるために
トウキは、古くは中国から伝わる代表的な生薬。「当帰」とも書き、婦人病の
万能薬としても知られています。実はこのトウキ、根っこは当帰芍薬散などの
原料として製薬メーカーに出荷されていて、消費者の手に届くことはほぼあり
ませんが、葉っぱはおいしく食べられるのです。
味は、セリ科だけあって、セリの香りとパクチーの風味が漂う独特の和製スパ
イス。トウキ葉のリグスチリドには血管拡張作用があり、女性の冷え性にもよ
いとされています。入浴剤として使うと、体がポカポカしてきます。宇陀市で
は、健康の増進と薬草農家の振興のため、トウキの葉っぱの出荷を奨励してい
ます。
「トウキの栽培は根気がいる。草取りが一番大変。そして、結果が出るのは2
年後」と、トウキ栽培の苦労も萬世さんは語ってくれました。野菜農家と違い
、生薬として出荷する根が成長するには時間がかかり、うまく技術が継承され
ずに辞めてしまう農家もいるのだとか。
また、一般の野菜と違い、希少作物であるトウキは十分に研究されていません
。トウキに使用できる農薬はほとんどなく、手作業で根気よく虫をとっている
そうです。
▲大和トウキをたっぷり使った入浴剤
それでも「根は生薬、葉は食用」と、多様な使い方ができるトウキに魅了され
る人が宇陀には集まってきています。宇陀市薬草協議会が開催する薬草講座に
は全国から受講生がやってくるといいます。トウキ栽培の後継者や使い手を増
やす取り組みは続きます。
▲大和トウキの蒸留水
生薬用の畑では冬に根を掘り上げ生薬問屋さんへ出荷。葉っぱは夏に収穫し、
道の駅で販売するほか、最近はトウキを蒸留した化粧品や石鹸、バスソルト、
トウキ塩などの加工品の開発が盛んに行われています。これらの商品は宇陀市
薬草協議会からも取り寄せることができます。
和製スパイス「トウキ」のおいしい食べ方
▲道の駅で売られている大和トウキの葉
萬世さんにトウキの魅力を聞いてみると、「トウキは、パンチの効いた和製ス
パイス」と答えました。萬世さんの家庭では、ハンバーグ、パスタ、ピザ、ご
はんのふりかけなど、何にでもトウキを使うのだとか。
▲トウキピザ
▲トウキ納豆
トウキは匂いが独特で好き嫌いが分かれそうですが、数少ない和製スパイス。
ハーブのような感じで、サラダや肉のスパイスなど、カジュアルにいろんな料
理に使える汎用性のある薬草だと思います。
今回、萬世さんに教えていただいたのは、トウキの葉を使ったトマトのパスタ
。作り方はとてもシンプルです。トウキのにおいが苦手という方も多いのです
が、油でいためるとそれほどにおいはきつくなく、それほど気になりません。
パンチをきかせたいときはぜひたっぷり使ってください。
レシピはこちら↓
トウキの食べ方を伝えることが町の活性化に
ミントやオレガノ、ローズマリーなどは家庭でも使われていますが、和のハーブはあ
まり知られていません。中でも食卓に取り入れやすいトウキをぜひ知ってもらいたい
と、萬世さんはおすすめのレシピを作成し、直売所でも配布しています。
一般の消費者に興味を持ってもらえる機会が増えれば、薬草を栽培する農家も増え、
薬草の町宇陀市の活性化につながるのではないか――。そんな思いを持ってトウキを栽
培されていました。
宇陀市のレストランではトウキ料理が楽しめるほか、トウキの薬草風呂もあります。
ぜひ、機会があればトウキを味わってみてください。