和のハーブ「大和トウキ」を食卓に!奈良県宇陀市 の薬草農家が伝えたいトウキの魅力

こんにちは。奈良県在住の旅人料理編集部ライター前田です。実は、奈良県は
薬草の産地で、「漢方のメッカ」と呼ばれていることを知っていますか? 
薬草文化発祥の地として古来より採集が行われており、その歴史は推古天皇の
飛鳥時代にさかのぼります。私は土地に根付いた豊かな薬草文化を学ぶために
移住し、宇陀市薬草協議会のみなさんとともに、薬草講座のコーディネートな
どの活動もしています。今回は、全国でも珍しい薬草農家さんのご紹介をした
いと思います。

薬草文化の町、宇陀

奈良県出身の製薬メーカー創設者は数多く、武田薬品、ツムラ、ロート製薬、
アステラス製薬(旧藤沢薬品工業)などが知られています。胃腸薬で有名な「
陀羅尼助(だらにすけ)」も奈良生まれで、トウキ、シャクヤク、キハダ、オ
ウレン、サイコという植物が主に栽培されています。
特に奈良県東の500mほどの高原に位置し、大和高原と呼ばれるほど自然豊か
な田園風景が広がっている宇陀市は、推古天皇が薬狩をしていたという「あき
の」と呼ばれる地であり、古来から薬草がよく育つ土地だったそうです。日本
最古の薬草園「森野旧薬園」も300年にわたり現存しています。
お訪ねしたのは、宇陀市にあるトウキの生産者グループ、「ときわクラブ」の
代表で、宇陀市薬草協議会の会長でもある萬世(ばんせ)晴康さん。5人のメ
ンバーと一緒に約30アールの大和トウキを栽培されています。トウキの白い花
がまばらに咲いていました。

もともと小学校の校長先生をされていた萬世さん。退職後、宇陀市役所がセリ
科の植物で、パクチーのような独特の香りがする「トウキ」の苗を配布してい
ることを知り、耕作放棄地を有効活用するため、100本の苗を受け取りました

1年目は生育不良株が多く出て全滅してしまいましたが、2年目以降、その原
因を追求しながら少しずつ栽培面積を増やし、今では仲間と共に育苗も手掛け
て約12,000本を定植。すっかりトウキにはまってしまったようです。

2017年に薬用作物の生産者グループ「ときわクラブ」を結成し、現在は5名の
農家が共同で出荷しています。草取りなどの日常の手入れは当番制で分担し、
出荷作業はメンバー全員で行います。今年から萬世さんは、市内全体の生産者
をとりまとめる宇陀市薬草協議会の会長にも就任されました。

「多くの人にトウキの魅力を知ってもらいたい」と、道の駅でレシピを配布す
るなど、トウキのおいしい食べ方を発信されています。

婦人病の万能薬「トウキ」を広めるために

トウキは、古くは中国から伝わる代表的な生薬。「当帰」とも書き、婦人病の
万能薬としても知られています。実はこのトウキ、根っこは当帰芍薬散などの
原料として製薬メーカーに出荷されていて、消費者の手に届くことはほぼあり
ませんが、葉っぱはおいしく食べられるのです。
味は、セリ科だけあって、セリの香りとパクチーの風味が漂う独特の和製スパ
イス。トウキ葉のリグスチリドには血管拡張作用があり、女性の冷え性にもよ
いとされています。入浴剤として使うと、体がポカポカしてきます。宇陀市で
は、健康の増進と薬草農家の振興のため、トウキの葉っぱの出荷を奨励してい
ます。
「トウキの栽培は根気がいる。草取りが一番大変。そして、結果が出るのは2
年後」と、トウキ栽培の苦労も萬世さんは語ってくれました。野菜農家と違い
、生薬として出荷する根が成長するには時間がかかり、うまく技術が継承され
ずに辞めてしまう農家もいるのだとか。
また、一般の野菜と違い、希少作物であるトウキは十分に研究されていません
。トウキに使用できる農薬はほとんどなく、手作業で根気よく虫をとっている
そうです。

▲大和トウキをたっぷり使った入浴剤
それでも「根は生薬、葉は食用」と、多様な使い方ができるトウキに魅了され
る人が宇陀には集まってきています。宇陀市薬草協議会が開催する薬草講座に
は全国から受講生がやってくるといいます。トウキ栽培の後継者や使い手を増
やす取り組みは続きます。

▲大和トウキの蒸留水
生薬用の畑では冬に根を掘り上げ生薬問屋さんへ出荷。葉っぱは夏に収穫し、
道の駅で販売するほか、最近はトウキを蒸留した化粧品や石鹸、バスソルト、
トウキ塩などの加工品の開発が盛んに行われています。これらの商品は宇陀市
薬草協議会からも取り寄せることができます。

和製スパイス「トウキ」のおいしい食べ方

▲道の駅で売られている大和トウキの葉
萬世さんにトウキの魅力を聞いてみると、「トウキは、パンチの効いた和製ス
パイス」と答えました。萬世さんの家庭では、ハンバーグ、パスタ、ピザ、ご
はんのふりかけなど、何にでもトウキを使うのだとか。

▲トウキピザ

▲トウキ納豆
トウキは匂いが独特で好き嫌いが分かれそうですが、数少ない和製スパイス。
ハーブのような感じで、サラダや肉のスパイスなど、カジュアルにいろんな料
理に使える汎用性のある薬草だと思います。

今回、萬世さんに教えていただいたのは、トウキの葉を使ったトマトのパスタ
。作り方はとてもシンプルです。トウキのにおいが苦手という方も多いのです

が、油でいためるとそれほどにおいはきつくなく、それほど気になりません。
パンチをきかせたいときはぜひたっぷり使ってください。

レシピはこちら(https://www.mainichigrillbu.com/recipe/913)


トウキの食べ方を伝えることが町の活性化に

ミントやオレガノ、ローズマリーなどは家庭でも使われていますが、和のハーブはあ
まり知られていません。中でも食卓に取り入れやすいトウキをぜひ知ってもらいたい
と、萬世さんはおすすめのレシピを作成し、直売所でも配布しています。
一般の消費者に興味を持ってもらえる機会が増えれば、薬草を栽培する農家も増え、
薬草の町宇陀市の活性化につながるのではないか――。そんな思いを持ってトウキを栽
培されていました。
宇陀市のレストランではトウキ料理が楽しめるほか、トウキの薬草風呂もあります。
ぜひ、機会があればトウキを味わってみてください。

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