イタリア・美食の街パルマで出会った、伝統と家族の思いがつまった奥深いチーズ

「グルメの国イタリア、その中でも本場の一品を体感したい!」という思いから行き先に選んだのは中部の街パルマ。実は今回3回目となるイタリア旅行。イタリアの食事のおいしさに取りつかれた私は、今回は料理を食べるだけではなく、それが生産されている現場もぜひ見てみたい、と思っていました。

そこで、目をつけたのがパルミジャーノ・レッジャーノの工場見学。「パルメザンチーズ」と聞くと日本のスーパーでも手ごろな値段で買えるおなじみの食材を連想しますが、これは全くの別物。本当のパルミジャーノ・レッジャーノ、実はもっと奥深いのです。

実際はどのようにつくられているのか? どんな思いで作られているのでしょうか?

イタリアのチーズの王様!?パルミジャーノ・レッジャーノ

「イタリアチーズの王様」とも呼ばれる「パルミジャーノ・レッジャーノ」。イタリア中部のパルマ、レッジョエミリア、モデナの各県と、マントヴァとボローニャの一部のみで生産された牛乳を使い、地域内で生産されたものだけを指します。

また、乳牛の飼料は、同じく原産地域内の生産に限られており、添加物や保存料の使用も禁止されています。生乳以外の原料は、天然凝乳酵素と塩のみ。これらの厳しい基準を満たしたものだけが、「パミジャーノ・レッジャーノ」と呼ばれることができるのです。
最低12カ月以上、長いものでは5年以上の熟成期間を経て製造されるパルミジャーノ・レッジャーノは、熟成期間が長いものほど価値が上がっていきます。貯蔵されているパルミジャーノ・レッジャーノの塊は、地元銀行では担保として認められ融資を受けられるほどです。

いざ、本物のパルミジャーノ・レッジャーノを求めて

私たちの旅はまず、訪問する工場を決めるところから始まりました。なんと、パルミジャーノ・レッジャーノ協会が訪問可能な工場を公式に一覧にまとめており、希望するエリアや訪問曜日から検索をかけることができるのです。

パルミジャーノ・レッジャーノの工場は、ボローニャからパルマにかけての地域に350棟程広がっています。その中で、数は少なく小規模工場になるものの市街地からのアクセスがしやすいモデナ・パルマ市のパルミジャーノ・レッジャーノ工場の1つを訪問することにしました。

パルマは、ミラノとフィレンツェのちょうど中間あたりに位置する街。市内人口は約18万人と中規模ですが、中心部は全て徒歩で回れるのんびりとした生活感のあふれる土地です。美食の街としても有名で、パルミジャーノ・レッジャーノ、パルマハムなど、この街の名前が掲げられたイタリアの名産品を生み出しています。

そんなパルマの中心部からタクシーで15分ほど。市街地を抜けると「Caseificio Ugolotti」の看板を掲げるチーズ工場にたどり着きました。迎えてくれたのは、明るい笑顔がチャーミングな、オーナーの義理の娘さんだというChiaraさん。Chiaraさんが嫁いできたこちらのチーズ工場の創業はなんと1930年。代々家族経営で、Chiaraさんの旦那さんもそのお父さんもそのまたお父さんも、ずっとこちらで働いてきたということです。

衛生目的で青いビニール服を全身に身にまとい、マスクと帽子も見につけ、Chiaraさんに工場内を案内していたただきました。

パルミジャーノ・レッジャーノができるまで

さっそく工場でパルミレッジャーノ・レッジャーノの作り方を見せてもらいました。

毎日夕方に届けられるミルクを一晩寝かし、脂肪分と水分を分離します。そして翌朝、水分の方に新たに届けられた新鮮なミルクと前日のチーズ製造でできた乳清と天然酵素を加えながら、牛乳が自然に固まるのを待つんだそう。

底に沈殿したチーズは、約1時間かけて鍋の底で凝固します。この恰幅の良いチーズ職人さんが2人がかりで持っているチーズ玉はなんと約40キロ! 1キロのチーズを作るのにはおよそ14キロリットルの牛乳が必要とのことなので、このチーズの塊の元には600リットル以上の牛乳が使われていることにも驚きです。

とりだされたアツアツでやわらかいチーズは、円柱の型に入れられます。ここで熱を冷ますと同時に、パルミレッジャーノ・レッジャーノであることを示す重要な模様がつけられます。

このシートをぐるっと側面に巻き付けることで、「パルミジャーノ・レッジャーノ」「製造年月」「チーズ製造所を示す固有番号」「DOP(特定地域の原産品を規定された製法により生産・加工・調整された製品であることを示すもの)」が側面にスタンプされます。

成形したチーズの塊は約20日間の塩漬け期間に入ります。毎日職人がチーズの向きを変えて均一に塩水につかるようにします。

浸透作用によってチーズの水分が潮の溶液の方へと流れだすことで、チーズの中の水分が排出されると同時に、塩分がチーズの中にゆっくりと取り込まれるんだそう。これによってパルミジャーノ・レッジャーノに塩気がつきます。この塩は、パルミジャーノ・レッジャーノの長期熟成においても保存料として大事な役目を果たしています。

湿度と温度が管理されている貯蔵庫では、最低12カ月、長いものは5年以上、パルミジャーノ・レッジャーノが保存されます。

正式に「パルミジャーノ・レッジャーノ」と認められるためには、パルミジャーノ・レッジャーノ協会の委員による認定審査を受ける必要があるようです。なんとこれは、サンプルを抽出して行うものではなく、貯蔵庫にある全てのチーズを一つひとつ個別に審査するとのこと!

協会の審査員が、ハンマーを使ってチーズの表面を叩きながら、その音と響きによってチーズの質を検査するのです。最終的に認められたものは、長期熟成に入ります。表面には「パルミジャーノ・レッジャーノ」の刻印と楕円形の合格印が押されます。

本物のパルミジャーノ・レッジャーノを味わおう

▲写真は奥から、1年・3年・5年熟成

チーズ工場がおすすめするパルミジャーノ・レッジャーノのおいしい食べ方は、やはりそのまま! 1年熟成、3年熟成、5年熟成と食べ比べしましたが、チーズの素人でもはっきり分かる違いがあります。1年熟成はさらっとしていてどんな料理にも合いそう。対して5年熟成はまさにチーズが主役になる重厚な香りが口の中に広がります。

熟成期間が長くなるにつれ、独特の風味が増してくるので、どれを一番と思うのかは好みに寄るところですが、一度5年熟成を食べてしまうと、1年熟成では物足りなくなってしまう「本物感」がありました。

ちなみにChiaraさんの好みは4年熟成とのこと。カットしたパルミジャーノ・レッジャーノをそのままだけでなく、バルサミコ酢かオニオンソースにつけて食べるのも、地元民の食べ方です。

年代が若いパルミジャーノ・レッジャーノは、削ってパスタやお野菜などと一緒に食べる用途で使われることが多いです。

街のレストランでは、このようなかわいいパルミジャーノ・レッジャーノの入れ物が各テーブルにおかれていることも。(中には削ったパルミジャーノ・レッジャーノがたっぷり入っています)

受け継がれる家族の思いと伝統のおいしさ

「私たちが作るパルミジャーノ・レッジャーノは本物。毎日届けられる新鮮な牛乳を使い、きめ細やかなケアをしながら伝統的な製法で作られるチーズ工場は、365日、クリスマスもイースターも休むことはありません」というChiaraさんの言葉からは、仕事の大変さだけではなく、世代を超えて伝統ある食材を担う一員であることにとても誇りを持っていることを感じました。

スーパーで手軽に手に入る量産型の粉チーズでなく、手間ひまかけて丁寧に作られる本物のパルミジャーノ・レッジャーノ。現場まで足を運んだからこそ、その奥深さを知ることができました。

単なる「おいしい!」で終わるのだけではなく、食材にストーリーがあることを発見した今回のイタリアの旅。次の旅も、すてきな食事と思い出に出会えますように。

タグ

    オススメコラム・特集

    このコラムに関連するコラム