福島の会津若松で教わったおいしい知恵。余ったジャガ イモで作る便利な「芋床」とは

冬は雪が深く、夏は盆地のため蒸し暑い福島県西部の会津若松市は、母の生まれ故
郷。猪苗代湖や磐梯山が有名な地でもあります。祖父は絵描きであり、駆け出しの
アーティストをサポートしながら、モダンな漆器の制作アドバイス、販売をしてい
ました。
祖父の部屋はスモーキーなタバコのにおいがし、海外の民族的なタペストリーや器
、置物などが飾ってありました。小さい頃から、部屋に行くとワクワクしたことを
思い出します。
祖父はもう他界しておりますが、その家に現在は母の姉一家が住んでいます。幼少
の頃からよく訪れていたので私にとっては田舎の実家のような雰囲気でもあります
。久しぶりに訪れる機会があり、そこで芋を使ったある料理と出会いました。それ
は、食べ物を無駄にしない「おいしい知恵」だったのです。

猪苗代町の芸術祭へ

私が久しぶりに会津方面に足を運んだのは、磐梯山が次第に色づきはじめた2016年
の秋。お目当ては、会津若松市の隣にある猪苗代町の小・中学校で開かれた「Wall
art Festival in INAWASHIRO」というイベントでした。国内海外からプロのアーテ
ィストさんが来て滞在制作をし、完成したものを芸術祭でお披露目するというもの
で、インドの小学校で行われた芸術祭がもとになっています。
芸術祭中には、インドの小さな村から、「ワルリ族」という少数民族が参加しまし
た。ワルリ族は、万物に宿る神様を敬い自然と共に生きることを今でも大切にして
いる民族です。その思想を絵にしたものが伝統文化の「ワルリ画」です。
現地の芸術祭で「ワルリ画」に感銘を受けた「Wall art Festival in INAWASHIRO」
の主催者が、「猪苗代を取り巻く自然をワルリ画で描いてもらいたい、猪苗代の子
供たちにそれを見せたい」と、若いワルリ画家を呼んだのでした。

私はインドで参加したボランティアでワルリ画のアシスタントをしていたことがあ
り、この機会にそのワルリ画家の友人たちと再会することに。そして、久しぶりに
会津若松市内の祖父の家へ訪れることにしました。祖父がやっていたことと似たよ
うなことを、孫の私がこうして再び同じ土地でお手伝いしていることに何か深い縁
を感じました。

ジャガイモが漬物床に!?

祖父宅では昔からパンを食べる習慣があまりなく、朝も昼も夜も米を主食としたご
飯。今回の滞在でも、主食はご飯でした。すごくシンプルで派手さはないけれども
、叔母のつくる白米、お味噌汁、お漬物、この3つがやはり絶品です。難しいこと
はやらないけれども、肝心な手間をちゃんとかけることが、おいしい秘訣なのだと
叔母を見て学びました。
そんな叔母と食べ物の話をしていたときに、産直市場で農家さんから教わった「芋
床」の話が出てきました。
いもどこ??? 
言葉だけでは全く想像もつかなかった私。聞くと、ジャガイモでつくる漬物床だそ
う。その言葉を聞いて、ますます頭の中は「?」でいっぱいに。冷蔵庫の中を見せ
てもらうと、タッパ―に入った飴色の「芋床」が。この床に野菜を漬けこむのではな
く、切った野菜に、小さじ1杯程度を合わせて漬け込むのだそうです。

芋床漬のお漬物を食べてみると、ほのかな甘みと、嫌みの無いあっさりとした風味
。そのやさしい味は、私好みでした。早速叔母からレシピを教えてもらい、

そして分けてもらった「芋床」を住んでいる紀伊半島へ持ち帰ったのでした。

「芋床のおいしいワークショップ」開催へ

所変わって和歌山県は古座川町。紀伊半島最南端の地域です。「地元の人たちと旅
人を繋ぐ拠点になりたい」。そんな思いで山間の小さな集落に「Lacoma」というゲ
ストハウスをつくった友達がいます。
私は「ミツバチフラワー」という名前で、発酵や薬草、アーユルヴェーダの知恵を
使った「セルフケア講座」を行っていることもあり、「健康で幸せな暮らしが日々
の中でできるヒントとなるようなおいしいワークショップで、地域の交流の場をも
うけてみたい」と以前から話をしておりました。
ちょうど、家々にジャガイモがたくさんに置かれる季節でもあったので、叔母から
教わった「芋床」のワークショップを共同開催することに。ワークショップは2時
間の間に参加者全員で芋床を作るという内容です。最後には、事前に用意した芋床
を使って、キュウリの浅漬けや、焼きおにぎりを作って味わいました。

初対面の人が多かったので緊張をほぐすため、まずはベテランさんがリードしてく
れて、和気あいあいとジャガイモの皮が剥かれていきました。次に鍋でジャガイモ
を潰しながら、ザラメと塩をなじませませていきます。

友達が声をかけてくれたおかげで、移住者さんもUターンで戻ってきた方も、地元の
お母さんもおばあちゃんも働く女性も男の人も多数参加してくださり、ワークショ
ップは食べ物が繋ぐ地域交流の場に。
ジャガイモがありすぎて困るという共通の話題で盛り上がり、おいしい知恵のシェ
アにもなり、初対面の人たちと笑いながらご飯を食べるという、「芋床」ワークシ
ョップは大成功でした! 


あるものを新しいカタチにして使う

ある程度の日本の田舎に住んでいると、梅雨入り前や師走の季節にいろんな方から
ジャガイモをいただく機会に恵まれます。断るのも悪いので「ありがとうございま
す!!」といただいていると、家の中はジャガイモだらけ。その処理に終われ、食
べ物のありがたみをだんだんと忘れていきがちです。
私もかつてはそうでした。しかし、久しぶりに訪れた祖父の家で叔母から教わった
のは、ジャガイモを無駄にしないおいしい知恵でした。使うジャガイモも、芽が出
始めた「屑芋」と呼ばれるような芋も多く、本来なら廃棄するもの。しかし、芋床
はそんなジャガイモも使い、さまざまな野菜をおいしい漬物に生まれ変わらせます

会津若松で知ったこの「おいしい知恵」がどんどん広まっていったら。どんどん受
け継がれていったらいいなと思います。


芋床レシピはこちら(https://www.mainichigrillbu.com/recipe/909)

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