カナダの先住民族から伝わる天然の恵み「メープルシロップ」ができるまで

数年前、買い物に出かけ、ふとお菓子のコーナーでモミジの形をしたメープル味のクッキーが目に入りました。「このクッキーおいしい。そういえばメープルシロップってどうやって作るんだろう?」と思った私は、カナダまで行って自分の目で調べてくることを決断。

メープルシロップはサトウカエデの樹液を煮詰めて作られるもの。世界全体の90%がカナダで生産されています。カエデの樹液を集めるのは3月から始まり、私がカナダの最大の都市・トロントに訪れたのは4月でした。気温はマイナス2~13度と聞いていたのですが、急に吹雪いたり雪も残っていたりと、私にとっては極寒の地でした。

メープルかけ放題!北米最大のメープルシロップフェスティバル

カナダのどこに行けばおいしいメープルシロップに出会えるのか? 暇さえあればリサーチしていた所、ある記事のタイトルが目に留まりました。

「世界最大規模のメープルシロップ祭り!」

どうやらトロントから少し離れた小さな町・エルマイラでは、年に一度だけ世界最大級のメープルシロップのお祭りが開催されます。ギネスにも認定されるほど有名で、毎年たくさんの人が集まるようです。

パンケーキのメープルかけ放題(STOP!と言うまで注いでくれます)や、メープル味の綿あめ、ポップコーン、ソーセージなど、とにかく、そこら中メープルシロップだらけ! 

カエデの木をのこぎりで切って速さを競うイベントや、メープルシロップができるまでなども見られます。人口1万人弱の小さな町ですが、カナダ中から人が集まり、その年獲れたメープルシロップを味わっていました。

一番人気はカナダの春の風物詩「メープルトフィー」というもの。煮詰めたメープルシロップを雪の上に流しアイスキャンディーのスティックを使って、くるくる巻いて食べます。 水あめのような柔らかさで、口の中にメープルの風味と甘みが広がりとてもおいしくて何度も食べたくなるほどでした。

生産量世界一!手作りのメープルシロップ作りを支える人たち

そんなメープルシロップの85%は、カナダのケベック州で生産されています。大都市トロントからバスを乗り継いで10時間ほど東に進むと、ヨーロッパのような雰囲気の残るケベック州に到着しました。

英語とフランス語がカナダの公用語でほとんどが英語圏になりますが、ここケベックは、フランス語が公用語の地域です。実は、サトウカエデの原生林が豊富にあるのはカナダ東部の州とアメリカの一部のみで、ケベック州もその一つ。高価格安定のため、販売量・価格設定・流通方法などを厳しく統制しているようです。

今回はこちらのカップルが家に泊めてくれ、メープルシロップができるまでを手伝わせてくれました。左のビアンカが家の裏にあるサトウカエデの原生林を買い取り、平日は普通のOL、週末は重機も操縦できるメープル農家としてアクティブに活動しています。

朝8時頃、防寒具に着替えスノーモービルでカエデの樹液(メープル・サップ)をチェックしにいきます。サトウカエデの幹に穴をあけ、そこに蛇口のようなものを取り付けてバケツをぶらさげておくと、この時期のサトウカエデは地中の水を吸い上げ、穴から幹の内部のメープル・サップが少しずつ流れ出し、バケツに溜まっていきます。

バケツの中に溜まっていくメープル・サップ。色は薄く、まだ不純物も含んでいますが97%は水分とのこと。糖質、アミノ酸、たんぱく質、さまざまなビタミンやミネラルを多く含むとても栄養価の高い液体だそうです!

ビアンカは、数百個あるバケツの一つひとつを丁寧に見ていき、溜まり過ぎてないか、味に変化は無いか確認していました。

昔ながらの作り方を受け継ぐ「シュガー・シャック」とは?

こちらは木から組み立てたビアンカ自慢の小屋です。メープル農家には、「シュガー・シャック」というメープルシロップを作る小さな小屋の作業場があります。カナダでは各地でサトウカエデの木があるので、収穫時期にはあちこちのシュガーシャックで、シュガータイム(収穫祭)が行なわれます。

これは、春の訪れを祝い、できたてのメープルシロップを味わう特別な時期なんだそうです。

中に入ると、メープル・サップを煮詰める大きな機械が置いてありました。数回に分けて煮詰めて、その色や糖度を計り、基準値に達していれば不純物を取り除いてメープルシロップの完成です。

糖度2~3%から66%まで煮詰めるので、時間はかかりますがおいしいメープルシロップのためには欠かせないプロセスです。

薪ストーブで火を焚くので、すぐに小屋全体が甘い香りと湯気でいっぱいに。この日は5時間程煮詰めました。樹液にミネラルが多く含まれていたりすると、色が付きやすいらしく、ビアンカは途中で何度も注意深くチェック。ビアンカは、この完成間近のメープルシロップとウイスキーを割った飲み物を作ってくれ、一緒に飲みながらおいしいシロップができるのを待ちました。

そして、できあがったメープルシロップは濾して、冷めたら缶詰をしていきます。

シロップにも等級があり、色・風味・糖含量で決定され、琥珀色が薄く風味が繊細なほど高級なものとして扱われています。同じ樹液からでも収穫する時期によって、できあがりの風味や味も変わっていきます。

出来上がった缶詰の表面にはメープルシロップを使ったレシピがプリントされています。この日の朝食は、ビアンカの好きなメープル・ハムを作ってもらいました!

パンケーキと豚の皮のチップス(ポーク・スクラッチング)、ハッシュドポテトも一緒に、お皿に乗っています。もちろん、この上からメープルシロップをかけて食べます!

メープル・ハムは、ブロックハムにできてのメープルシロップとお酒を合わせたソースを塗り込み、じっくりオーブンで焼くだけです。簡単でおいしいのでぜひレシピを参考にしながら、家庭でもお試しください!

https://www.mainichigrillbu.com/recipe/878

また1年後の収穫まで…極寒地で育った自然の恵みを大切にするカナダ

カナダの国旗にも描かれているカエデの樹液から獲れるメープルシロップは、昼の気温が12度前後、夜の気温がマイナス10前後といった気温の差が激しい時に良質の樹液が取れると言われています。

しかしその収穫時期は、冬の3月下旬から4月にかけてのわずか6週間ほど。カナダの春はその短い期間で取れるメープルシロップの収穫を喜び、地元の人も心待ちにしている季節でした。北米の先住民族から受け継がれた伝統もあり、どんな料理にも使える万能調味料でもあり、秋には紅葉で真っ赤に染まった絶景も楽しめる……。自慢の名産品の理由がわかった気がします。

カナダの人々の生活の一部として愛されるメープルシロップをより身近に感じた体験でした。

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